初夏。全国で田植えが行われている。
収穫時期や台風の影響を逃れるためなど、いろいろな理由で地域によって田植えの時期は違うが、福島県いわき市北部では5月中旬の土日がピークだったらしい。
水が張られた田んぼに青々としたイネが植えられた光景は、まだ目にしていないが目に浮かぶ。原発事故に負けることなく、今年も美味しいお米がとれてほしいと思う。
そう思うのは、
この地域で真剣に米作りを行っている人たちと知り合いになったからだ。
知り合いになっていく過程で、あっ、と思った言葉があった。それをお伝えしたい。
グループの人たちは、いわき市北部の大久や四倉という地域で、放射能の影響を極力抑える米作りに挑戦している。それぞれが工夫をし、イネが放射能を取り込みにくい方法をさぐり、試した工夫の結果を測定し、さらに工夫を凝らす。そんな方法で、昨年には国の基準をはるかに下回る成果を上げていた。
国の基準は1㎏当り100Bqだが、グループの人たちは、出荷前のお米を1袋ずつすべてについて線量を測定。国の基準の10分の1以下のお米を生産することに成功した。
それ自体、すごいことだと思ったのだが、次年度(つまり今年)の米作りに向けてのミーティングの中で、グループの一員のSさんはこんなふうなことを言った。
「いろいろな条件でお米を作ったが、精米した白米ではかなり低いレベルにとどまったようだ。測定装置の検出限界以下というお米も少なくなかった。ベクレルが出るまで時間を延長して計ったりもしたけれど、それでもなかなかベクレルは出なかった」
えっ?
作り手であり、売り手である立場なら、
放射能が検出されない→安全度はかなり高い。国の基準なんかとは比べ物にならない→よかった!自信を持って売れる
となるんじゃないか。
でもSさんは、数字が出るまで測定時間を延長して計った。これじゃまるで残留放射能が測定されてほしいみたいじゃないか。
あっ、と気づいた。
Sさんは作り手として、安心して食べてもらえるお米を提供したい一心なんだ。
国の基準を下回ったからOK、なんてことではもちろんない。
基準の20分の1未満だからそれでよし、でもない。
事故の前と同じように、
自分自身が「おいしい」と自信を持てるお米をお客さんに届け、
安心して食べてほしい。
Sさんたちのグループは、今年の米作りにあたって、放射線ゼロという目標を掲げている。基準以下とか検出限界以下ではなく「ゼロ」だ。
しかし、去年のやり方がそのまま通用するとは考えていない。山も変化している。放射性物質の動きも変わって来るかもしれない。だから、昨年にもまして、工夫と確認を繰り返して、安全な米作りを目指すという。
そんな人たちだから応援したいと思う。
測定装置の問題で科学的にはゼロなどありえない、とかそういうレベルのゼロではない「ゼロ」を真剣に目指している人たちだから、原発事故に負けることなく、今年も美味しいお米がとれてほしいと思うのだ。
文●井上良太