粟島の体験民宿に泊まることになった!
体験民宿とは、その地域の自然や文化に触れる体験活動を提供する宿のことらしい。
粟島では、この体験民宿と呼ばれる宿がいくつかあるのだが、どうせ泊まるなら体験民宿!となり、僕と友人のSさんの意見が一致した。
「差し支えなければ漁船に乗りたいんですけど!」
釜谷地区にある体験民宿「金三郎」は、ご主人が漁師を兼ねる漁師民宿。この時期の粟島であれば、島の名物である大謀網漁や刺し網漁が見られるとのことだ。
僕の気持ちが前のめりになったのは夕食のことである。「お食事ができましたよ~」と呼ばれたので食堂へ行くと、待っていたのはこれでもかという海鮮攻勢の夕飯だった。
鯛にカレイにカンパチにノドグロ(赤むつ)!・・・と、魚尽くし!よく見ると肉はひとつも無し!いったい海の食べ物が何種類あるのやら。島で鮮魚を食べること自体は珍しくないけれど、鯛にカレイに・・・となると、例えば南の島ではまず見かけない。
「日本海の島ならでは」と思うと、ありがたみも倍増というものだ!
ちなみに、魚類は全て島で獲れたものだという。そのうえ、全部同じ漁法なのだそうだ。
しかし、海にさほど縁の無い僕にとって、漁の光景などさっぱりイメージが浮かばない。ただ、例えば僕が趣味で釣りをするとき、魚を釣ろうものなら、エサを変え、竿を変え、河岸を変え・・・と工夫するものだ。だが、この魚たちは同じ網に掛かっているらしい。
そんなことを思うと、ムショーに漁の様子が見たくなる。ここが体験民宿で良かった!
「あの、せっかくなんで、差し支えなければ漁船に乗りたいんですけど!」
僕がそう希望すると、波が荒いらしく、船が出せるかどうかは微妙なよう。今朝は漁を断念したらしい。
「じゃあ、この時期は4時30分ごろに出港するから、とりあえずその時間までに漁港に出てきてくださいね」
とは言え、海の世界も厳しくて・・・
しかし、結論から言うと僕らは漁船に乗れなかった。
朝4時15分。薄明るいなか漁港へ向かうと、
「いやぁ、こりゃダメだ。あんたらやめといた方がいいよ」
と、金三郎のご主人。やはり波が悪いらしい。
それでも、素人目には穏やかな海にしか見えず、「マジっすかぁ・・・」とその判断にがっかりした。ただ、僕らを置いて出港した漁船が、前後左右に飛沫を上げながら大きく傾いているのを見て、僕らの考えが甘かったことを思い知る。
1時間半ほど経ち、やはり漁船は揺れながら帰ってきた。
刺し網漁という漁法で、海に仕掛けてあったどデカい網を手繰りつつ、網に引っ掛かった魚たちをカゴに分けていく。ここで、前日漁に出なかったことの影響が出た。
「やっぱり一日長くなるとダメだわ。こうやって食われんだよ」
金三郎のご主人がすでに身がボロボロのイワシや、皮だけで身がスカスカの鯛を指さして教えてくれた。
「イワシはともかく、この身がスカスカの鯛も食われたんですか?」
「あぁ、それは寄生虫」
「寄生虫!?」
網に引っ掛かったまま長く放置しておくと、大型の魚だけでなく寄生虫にまで食われるらしい・・・。海の世界の厳しさを思い知る。
でもやっぱり、ワクワクする光景
ただ、それでも次から次へと魚が出てくる。刺し網は素人な僕の想像以上に大きく、手繰り寄せるたび、何かしらかかっているのだ。エイ、マダイ、イワシ、ヒラメ、オコゼ、なんだかよくわからない魚・・・。かなり大きい奴もいる。初めて見る光景だ。
時間が経つにつれ、他の宿に宿泊しているお客さんなど、ちょっとしたギャラリーができ始め、いつの間にか数人の漁師に対して20人近い見物客である。人間だけじゃなく、海鳥までもが、魚の“おこぼれ”を伺っている。それは素朴だけど賑やかで、僕にとっては初めての景色だった。
こうして、早朝4時過ぎからおよそ3時間弱。金三郎のご主人は作業を終え、ようやくひと段落した。
「今日は今ひとつだったけど、まぁ今晩の夕飯には十分だな」
カゴには、魚がぎっしり詰まっている。これでも今ひとつとなると、大漁の日はどうなるのだろうか。
「そりゃあ入れ食いだともう、もっと忙しくなるよ」
とご主人。ううむ、そりゃそうですよねぇ。次回こそ、船に乗れますように。
粟島・釜谷集落
粟島の西側に位置する釜谷集落。島のメインである内浦集落と比べれば、わりと穏やかな場所である。
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