田代島と猫と津波【島と○○】

津波から身を守った田代島の猫たち

田代島。仁斗田港付近の猫たち。

 「田代島と言えば猫である。」 そう言って良いほど、宮城県・田代島は猫好きの間では聖地とも呼べるほどの島ではないでしょうか。「その昔、島の漁師が、不慮の事故で亡くなった猫を手厚く葬ったところ、大漁が続き、事故が減った。」島にはこんな言い伝えがあり、いつしか猫は神様と考えられるようになりました。島では島民が猫にエサをやり、大切に育てています。

 人間より猫の方が多い「猫の楽園」としてテレビ放映されるなどし、人気に火が付き始めた2011年3月、東日本大震災が起こり、巨大な津波が東北地方を襲いました。石巻市に属する田代島も震度6強の揺れを観測したそうです。 震災後、しばらくしてこんなニュースがありました。

【猫島】ネコ80匹たくましく生き延びた 石巻の「猫の島」田代島・宮城
東日本大震災の津波で甚大な被害を受けたが、島民に大事にされてきた野良猫たちは地震や津波に負けず、たくましく生き延びていた。
(中略)
島民によると、震災前と変わらず約80匹の猫が生き延びたとみられる。

(引用:毎日新聞 2011年5月27日付より)

とのこと。暗い話題が多くなりがちななか、これには猫ファンもほっと胸をなでおろしたと思います。しかし、猫と人間が共存する島にあり、当時は東北地方に限らず、日本国中が混乱したと言っても過言ではありません。猫はいかにして自分たちの身を守ったのでしょうか。

田代島。坂の上から海の方向を眺める。

猫はどのようにして身を守ったのか。

 特に気になるのは、猫にとって、地震と津波は見聞きしたことも無いような出来事だということ。人間でさえ、逃げ方ひとつで生死を分けました。津波をどう理解し、どう逃げたのか気になります。人間ならば、テレビや携帯の速報が入り次第、逃げはじめることができます。ところが、猫がテレビや携帯を持っているワケありませんから、耳や目で理解してから即座に逃げなくてはならないはずです。

坂を上った先、阿部ツ商店前の猫たち。

 そこで猫の性質について調べてみました。 まず耳、「聴覚」に関しては、五感の中では最もすぐれているのだそうです。特に獲物を捕らえるため、高音域に優れているとか。ネズミなどの高い鳴き声に対応できるのも、このおかげだそうです。一方、捕食動物を連想させるような野太く低い音を好まないという性質も。地震や津波の音も野太く聞こえたのでしょうか。

 次に目、「視覚」に関しては、人間と比べてもかなり悪く近眼と言われています。一方で動体視力には優れており、動的なものはよく見極められるのだそうです。獲物を捕らえて生きてきた猫ならではですね。迫りくる津波を見れば、危険なものと理解するまで時間はかからないのかも知れません。 また、先に紹介した記事にも手がかりがありました。

海岸近くの自宅で野良猫に餌やりをしている畠山和子さん(72)は「地震の時は、私たちよりも逃げるのが早かったくらい」と当時を振り返る。津波が引いてしばらくすると、山の方から猫が下りてくるのが見えた。

(引用:同上)

このことから、危険を理解して逃げるまで、人間よりも速やかだったことはわかります。猫は水が苦手と言いますが、やはり津波が視界に入ったのでしょうか。津波が陸上を走るスピードは秒速3mないし4mだそうです。人間であれば、かなり危険な速さなのは言うまでもありません。 一方、猫は時速50km程度(秒速約14m)で走ります。津波が陸地に乗り上げてからのスピードと比べれば、猫の方がかなり速いと言えます。猫の最高速は、よく「世界記録保持者・ボルト選手より速い」と言われます。一度決めたら一心不乱に走ることができるのでしょう。

 これらを総合すると、猫は素早く危険を察知し、やはり逃げるまでのスピードが速かったと言えそうです。

仁斗田港付近の猫たち。

 震災後、田代島の人々は復興プロジェクトとして「NPO法人 田代島にゃんこ共和国」を立ち上げました。猫人気にあやかり、「猫の島」として震災復興、離島振興を目指しています。同法人は震災後に募った寄付において、3か月で1億5000万円を集めました。その支援者の多くが猫ファンだったと言います。

 こんなエピソードを聞くと、やはり島における猫の存在の大きさを感じずにはいられません。島としても、猫が生き延びてくれたおかげで、再起を図ることができています。これからも「猫の島」として魅力的な島であってほしいですね!