2013年2月6日、ザックジャパンはラトビア代表をホームに迎え、今年初の国際Aマッチに挑みました。オフシーズンでコンディションの悪い国内組を外し、インシーズンの海外組を中心にスターティングメンバーを組みました。ドイツ・ブンデスリーグで躍進する大津祐樹を初代表に招集するなど、マスコミの注目度も高いフレンドリーマッチとなりました。
1トップに岡崎というサプライズ
日本代表のフォーメーションはDFに左から長友、今野、吉田、内田。MFはボランチに長谷部と細貝。攻撃的MFは左に香川、中央に本田、右に清武。そしてフォワードにはザックジャパンで初の1トップとなる岡崎慎司を配置します。これまでの戦歴を振り返ったとき、1トップはポストプレーに優れる前田遼一と本田圭佑を起用してきました。岡崎はボールを収めるタイプではなく、1.5列目からスペースに飛び出していくセカンドトップです。戦術に変化を求めないザッケローニが、新しいオプションを試すのは異例のことでした。
トップにボールが収まらず、ラトビアの堅守にハマる
ラトビア代表は190cm近い長身のDFを並べてゴール前に守備のブロックを築き、中盤をコンパクトにして激しいプレスをかけ、マンマークに近い超守備的な戦術を採用します。日本は攻撃のスペースを見出せず、1トップの岡崎はボールを収めることができずに前線で孤立し、本田と香川がドリブルで仕掛けても寄せの早いDFに潰されます。
トップにボール収まらなければ2列目が押し上げられず、サイドアタックでディフェンスラインを揺さぶってスペースをこじ開けるザックジャパンの攻撃のセオリーが停滞します。ラトビアのように相手が引いて守ってくる場合、トップにボールが収まらければ展開しようがありません。
己の武器で勝負に出た岡崎のゴールで流れが変わる
前半20分を過ぎた頃、岡崎の動き出しに工夫が出始めます。ポストとしてゴール前に張りついてボールを収めようとしても、DFの圧力に負けて潰されていました。1トップのイメージに固執した岡崎は、前田遼一の幻影を追いかけて己の個性を消していたと思います。
中央に張りつくことを止めた岡崎はDFの裏に飛び出して本田のスルーパスを呼び込み、両サイドに流れて起点を作り、サイドバックのオーバーラップを引き出します。ラトビアのDFは岡崎のフリーランにつられてマークが徐々にずれていき、2列目がゴール前で攻撃に使えるスペースが生み出されました。
前半41分、ペナルティエリア内に侵入にした内田がシュート性のグランダークロス入れると、中央の岡崎が体を投げ出しながらシュートコースを変えて先制ゴールを奪います!岡崎は国際Aマッチ59試合目で史上最速の30ゴールを達成しました。不慣れな1トップで戸惑いを見せながら、質の高いフリーランを繰り返して前線の起点となり、ゴールまで決める適応力の高さには驚かされました。新しい攻撃のオプションとして岡崎の1トップが加わったのは大きいと思います。
前田のポストプレー、遠藤のゲームメークで中盤も安定
ザッケローニは後半から前田遼一と遠藤保仁を投入してベストメンバーを揃えます。前田がトップに入ったことで中央でボールが収まり、サイドハーフの香川と岡崎が前を向いてボールを持つ機会が増えました。バイタルエリアに広大なスペースが生まれることで、左サイドの香川と長友が得意のドリブルで何度もディフェンスラインを突破します。
後半15分、左サイドからドリブルで切れ込んだ香川のラストパスを、本田がダイレクトでGKの頭越しを狙うループシュートを決めて2点目。さらに後半16分、前田とのパス交換から香川がDFの背後にダイレクトパスを送ると、オフサイドラインを突破してDFの裏に飛び出した岡崎がGKを冷静に交わしてダメ押しとなる3点目を奪います!
これまでにないザッケローニの攻撃的な采配
ザッケローニ監督は試合終盤にクローザー役として守備的な選手を投入するのが通例でした。しかし、この日は次々と選手を入れ替えて攻撃のオプションをテストします。左サイドハーフに乾、右サイドハーフに大津、右サイドバックに酒井高徳という新布陣を敷きました。
特に左サイドに入った乾貴士の動きはキレキレで、テクニカルなフェイントとスピード溢れるドリブル突破でDFを置き去りにすると、ゴールが見えたら即シュート!ドイツ・フランクフルトでレギュラーを張る実力は伊達じゃないことを証明してくれました。
初召集でいきなり投入された大津祐樹もサイドを強引に突破するプレーで持ち味を発揮。ドイツ・シュトゥットガルトでレギュラーを張る酒井高徳も攻守に安定感のあるプレーを見せ、両サイドバックのバックアップとして通用することをアピールしました。
ザッケローニ監督には更なる新戦力の発掘を求めたい!
コンディションの悪いラトビア代表は後半途中からサンドバックに近い状態でした。この結果を見て日本のレベルが上がったと勘違いすることはできません。しかし、攻撃のオプションをテストできたのは大きな成果だと思います。岡崎の1トップ、乾貴士の覚醒、大津祐樹の代表デビュー、酒井高徳の右サイドバック起用など、新戦力の発掘は代表の強化に不可欠です。
中盤で遠藤保仁の穴を埋めるボランチの発掘は未だに見えません。五輪代表の扇原やベテランの中村憲剛をボランチでテストする機会も必要でしょう。岡崎慎司が欠場した場合、得点力が大幅にダウンすることも想像できます。Jリーグ得点王の佐藤寿人の使い道を代表で考える必要はないでしょうか?この試合、ザックジャパンの希望と課題が見えた一戦だったと思います。