工房も道具も津波で流されて、硯を彫るノミも廃業した人から譲ってもらった
(2012年11月24日)
遠藤市雄さん。東日本大震災で町の中心部が壊滅する被害を受けた石巻市雄勝町で、伝統工芸品「雄勝硯(おがつすずり)」を手掛ける工人(職人)さんです。
2012年11月24日、石巻市で開催された伝統的工芸品フェア『第17回文房四宝まつり』で、遠藤さんによる硯づくりの実演を見せてもらいました。書道の授業でおなじみの硯ですが、伝統的な硯がどうやってつくられるのかご存知ですか?
雄勝硯は粘板岩という石を彫ってつくります。石を彫る道具はノミ。硯の形や種類によって多くの種類のノミが使われます。「私たちが使うのはだいたい7種類くらい。小学校で使う硯なら基本的な3種類のノミで彫ることができます」と、遠藤さんが教えてくれました。
しかし、石を彫るってどういうことなのでしょうか?
遠藤さんが硯を彫り始めました。長い柄の先端を肩に当てて、体全体を大きく前後に動かしながら石を彫っていきます。
彫れ具合をじっと見つめる遠藤さん。
そして再び硯にノミを当てて彫り始めます。ノミの刃先が石の表面を削るグッグッツという独特の音が響きます。
「体重をかけて彫っているから、こんなになるんだよ」
遠藤さんが肩をはだけて見せてくれました。ノミの柄を当てている場所が赤くなっています。肩というより大胸筋の付け根あたりのようです。
「津波で工房も道具もみんな流されてしまって、身一つで助かったようなもの。硯を彫るノミもなくなったから、廃業した人から譲ってもらってね。でも、道具は1人ひとりみんな違うから、ノミの刃先や柄の長さ、当たり具合など、自分に合うように直して使っているんだ」
遠藤さんはお客さんへの商品説明も。手にしているのは硯の共蓋。1枚の石を割って片方を硯に、片方を蓋に仕上げているので、ぴったり蓋が密着する。雄勝硯の特徴のひとつ。
しかし、津波被害を受けた現在、雄勝町で硯を彫り続けている工人は遠藤さんひとりになってしまいました。若手を育成し、600年続いた雄勝硯の伝統を未来に伝えていくために、遠藤さんの力は欠かせません。
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●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)