盆踊りを本気で踊る(小笠原諸島)【旅レポ】

「小笠原の盆踊りはちょっと普通じゃないから。」

聞かされていた通りだった。父島の宿でスタッフとして働いていた頃、僕はこの島で「本気の盆踊り」に出くわした。そう、まさに本気なのだ。大人も、子どもも。

「本気の盆踊り」

父島の盆踊り

父島の夏祭り「小笠原サマーフェスティバル」は大いに盛り上がっていた。1年で島が最も混む日と言えるかもしれない。そんな、島を訪れる人たちのお目当てが盆踊りだ。

盆踊りとは、祖先の霊の前で踊るものだと勝手に思っていたが、今見ているものはどうも違うらしい。別に霊の前で無ければ、まして子孫でも無いような人たちが、ただただ本気で踊っているのだ。違和感のあまり、僕は持っていた携帯で調べる。

お盆(おぼん)は、太陰太陽暦である和暦(天保暦など旧暦という)の7月15日を中心に日本で行なわれる、祖先の霊を祀る一連の行事。

引用元:お盆 - Wikipedia

そうそう、確か僕が知っている「お盆」はこんなところだ。

15日の盆の翌日、16日の晩に、寺社の境内に老若男女が集まって踊るのを盆踊りという。これは地獄での受苦を免れた亡者たちが、喜んで踊る状態を模したといわれる。夏祭りのクライマックスである。

引用元:お盆 - Wikipedia

ちょっと難しい話だな・・・。「地獄での受苦を免れた亡者たちが、喜んで踊る状態」っていうのは初めて知った。でも夏祭りのクライマックスと言えば、その通りか。

近年では、場所は「寺社の境内」とは限らなくなっており、また宗教性を帯びない行事として執り行われることも多い。人が多く集まれる広場に櫓(やぐら)を組み、露店などを招いて、地域の親睦などを主たる目的として行われるものである。盆の時期に帰郷するひとも多くいることから、それぞれの場所の出身者が久しぶりに顔をあわせる機会としても機能している。

引用元:お盆 - Wikipedia

そうそう!今目の前に広がっている盆踊りはどう見てもこれ!これなんだ!なるほど。霊前だの宗教性だの気にしない盆踊りってのがあるんだな。なら、今目の前に見えている「本気の盆踊り」、これはこれでOKなんだ。なんだか、安心した。

「本気の盆踊り」

そこまでしなきゃならんのか。

浴衣に彩られた人々が、キレのある踊りを見せていた。僕は踊りが苦手なので、幼少のころに参加した記憶のある地元の盆踊りでは、踊らずに傍からぼーっと眺めていた思い出しかない。ところが、この会場ではそんな人間がほとんどいない。びっくりするくらい、みながみな踊っているのだ。

思えば、この日任された仕事はいつもと違っていた。まず地図を作製した。宿から会場までの地図だ。そして、今度は巨大なブルーシート、テーブル、お菓子、飲み物と車に詰め込んだ。場所取りである。まるで大手企業の新入社員のような仕事(?)を任されていた。正直言って、父島の人口なんてたかだか2000人くらいだ。観光客を足してもそれほど多くないはずである。

「午前中に場所を押さえておけばなんとかなるよ。」

と、宿のオーナー。そこまでしなきゃならんのか。

そこまでしなきゃならんかった。

会場はその2000人以上が、まるまる集まったんじゃないかと思えるほどに賑わっていたのだ。踊りが止まっている間は“休憩所”兼“宴会場”として広々としたスペースが必要だった。幸い僕が確保した場所は十分な広さに加えてほぼ最前列。踊りを眺めるにも良い場所だ。眺める前に踊るわけだが。

しかしまぁ、これほどの人間が一斉に踊るというのは圧巻の一言である。ある大人は100kg近い巨体を弾ませて、ある女の子は汗で化粧を崩しながら、ある子供は奇声にも聞こえそうなほどの大声を上げながら、踊る。痩せた眼鏡の兄ちゃんも、アクセサリーまみれのギャル姉ちゃんも、関係ない。

僕は写真係という体で踊りから避けていたが、すぐさま常連客の一人に拉致されてしまった。

「いや、僕ホンマ踊りヘタなんすよ。」

「大丈夫大丈夫!見よう見まねでイケるから。楽しいよ!」

見よう見まねで踊る阿呆

♪ゆめーのーしまーだーよ きてみてごらっぁんー 

僕も見よう見まねで踊ってみた。初見の歌に初見の踊り、いやいや、やはり難しいぞ。

♪はなとみどりとあおいうみー あおーいーうーみー 

ここで、全員が「ざぶ、ざぶ、ざぶざぶざっぷーん」と掛け声をあげながら、波が弾ける様子を踊る。ざっぶーんで全員が跳ぶ。もちろん僕はワンテンポ乗り遅れる。

・・・なんだこれ、楽しそう。というか、「これは踊れないと損だ。」踊れないのがもどかしい。だってこの人たち、心底楽しそうだもん。

全国から観光客が集まる小笠原。特にこの時期は大半が常連客で占めるという。学校で、職場で、それぞれの素顔を持つ人々が、盆の時期はこの島に集まり、アホみたいに踊るのだ。

「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」

毎年島に来るという常連客のおばちゃんにそんな常套句を言われた。ごもっともです。



踊りは合計で6~7曲ほどあったのではないか。僕は宿に帰って教えを乞うと必要以上に先生が就いた。この人たち、まだ踊りたいのか。

盆踊りは合計3日。そのうち残り2日は僕も踊る阿呆になった

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