2012年10月19日の楢葉町
いわき市から海岸沿いに国道6号線を北上すると、一見のどかな田園風景に思える光景が広がる。 しかし、ここは福島第一原子力発電所から20キロ圏のさらに内側だ。
写真:奥野真人(株式会社ジェーピーツーワン)
かつて警戒区域のゲートがあった広野町Jビレッジの少し先から、電光掲示が見られるようになる。
写真:奥野真人(株式会社ジェーピーツーワン)
そして間もなくゲートに到着。以前よりものものしい印象を受けたのは気のせいだろうか。
この場所の空間線量は0.65μSV/h。いわきよりは高いが、これよりもっと高い線量の場所は少なくない。とりあえず、ゲートを見て、空間線量を測定したということで今日はよしとして楢葉の町の方へ戻ることにした。
人の気配のない空間で出会うのは…
ゲートから南方向に戻り、楢葉の町中を走る。
立ち入りは許されているはずなのだが、ほとんど人の気配を感じなかった。 それもそのはず、お店が開いていないのだ。
車が停まっているから「もしや」と入ってみたコンビニは休業中。
農家の人たちになじみ深いホームセンターは、閉鎖されてからの時間の経過を感じさせるたたずまい。
天神岬へ続く道路沿い、水田脇で空間線量を量ってみるとこの数値。
線路の盛り土の側で、雨水が集まりそうな場所の雑草の根元で測ると、数値は1.9に跳ね上がった。
写真:奥野真人(株式会社ジェーピーツーワン)
一面を覆い尽くすセイタカアワダチソウ
本来なら、稲穂が黄金色に輝いている季節だったが、
水田に輝くのはキク科の外来植物セイタカアワダチソウ。 広い田んぼを黄色い花で埋め尽くす。最近ではあまり見かけないくらいの大きな群生だった。
遠くから眺めると、太陽に輝く黄色は美しかったりもする。
でも、ここで米作りをやってきた人にとっては憂鬱な黄色なのだろうか、ということを考えた。
しかし、少しだけいい話もある。
セイタカアワダチソウはセシウムを吸収する能力に優れているらしいのだ。
いわき市大久町小久で、放射能に負けない農業を目指している佐藤三栄さんが教えてくれた。
空から降ってきたセシウムは、農地の土の表層近くにとどまっている。
セイタカアワダチソウを草取りした経験がある人なら知っているだろうが、 この草はあまり深く根を張らない。地面近くに横向きに根を張る性質がある。
だから、深く根を下ろす植物よりも、たくさんセシウムを吸収するということらしい。
田んぼで育ったセイタカアワダチソウを刈り取って、田んぼの外に捨てることができさえすれば、 セイタカアワダチソウが吸収した分だけ、田んぼの土のセシウムを減らすことができる。
どこに捨てるか、という大きな問題はあるものの、植物の性質をうまく使うことで、土中のセシウムを減らして行くことは可能だ――。
そんな話だった。
稲穂の代わりに絵の具のような鮮やかな黄色に揺れるセイタカアワダチソウ。 憎たらしい雑草に、希望につながる力が備わっているとは!
被災から1年半、原発事故被害から回復を目指す動きは、少しずつ始まっているようだ。
津波被害を受けることなく、放射能の影響で放棄されている水田は、セイタカアワダチソウでいっぱいだ。どこまでも続く金色のじゅうたんのように見えるところすらある。そして次に多いのがススキ。かつて日本中の空き地や荒れ地を席巻した後、最近では勢力を弱めていたセイタカアワダチソウとススキが大量に生えているのは、何とも不思議な感じがする。
ちなみにススキも根の張り方が浅いので、セシウム吸収能力が高いのではと期待する声もあるようだ。
◆ 放射線検出限界を下回る、安全で安心して食べられるコメ作りを行っている佐藤三栄さんたちの取り組みを連載記事でお届けしています。
●TEXT+PHOTO(但し書きのないもの):井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)