復興屋台村 気仙沼横丁(宮城県気仙沼市)
東北地方を取材中のとある夜の話。気仙沼の港の近くにある『復興屋台村 気仙沼横丁』で食事をとることになった。三陸の中でも津波による被害が特に顕著に感じられた気仙沼。しかし、無数の提灯と紅白ののぼりに彩られ、20数店舗が立ち並ぶプレハブ団地は、既ににぎやかな空気に満ち満ちていた。
その料理に“ひと味ぼれ”
気仙沼港近くにある『復興屋台村 気仙沼横丁』。街灯がほとんどない周辺だけに、じわりと暖色が際立つ。
気さくに色々と話してくださった「大漁丸」の奥さん。
このお店を心から楽しんでいるのが伝わってくる。訪れたお客さんのメッセージが残るノートを見せてくれた。
その中で、たまたま立ち寄ったお店「大漁丸」が大当たり。店の奥さんが話し上手で、たちまちその明るい雰囲気に引き込まれてしまったのだ。他愛のない話から被災時や屋台村設立の話まで、色々と聴かせていただいた。 そしてとにかく料理が抜群に旨い!気仙沼で水揚げされた新鮮な海の幸はこれほどかと。下戸な僕ではあったが、料理の旨味成分だけで五臓六腑に染み渡る。そう思えるほどに肴を愉しめた。
「マツモ(海藻の一種)の酢の物※」や「マグロのコワダ(胃袋)」といった珍味も旨い。こういった変わりメニューの多さも大漁丸の“ウリ”だったが、中でも僕は「ハーモニカ※」や「ゲソのから揚げ」といった旨味溢れる揚げ物に魅せられた。 しかし味も旨いのだが、メニューの楽しさ、店内の雰囲気、総合的に見ても五重丸だ。“ひと目ぼれ”ならぬ“ひと味ぼれ”かも知れない。まだまだお会計の時間でもないのに「また来たいですねぇ」とつぶやくと、奥さんがお店のエピソードを話してくれた。
◆◆◆ 津波で一時は家族がばらばらになったこと。ご自身も一歩間違えれば危なかったこと、被災後は手当で無難に暮らせたが「このままで良いのか」と悩んだこと。「何かやろう」と一念発起した矢先に屋台村の出店要項を見つけたこと。時には遠方から、時には有名人が、毎日多くのお客さんが来てくれること・・・。
話しかたこそ淡々とされていた。ただ、どこから聞いても今を楽しんでいるに思えた。目に火が付いているのが伝わってくるのだ。
※ 「マツモの酢の物」市場には出回らない高級海藻だとか。
奥には筆者イチオシのゲソのから揚げ。※ 「ハーモニカ」
メカジキの背をスパイシーに揚げたもの。ハーモニカに見える!?
店内に貼られた溢れんばかりの写真。
オープンして1年たたず(2012年10月現在)。貼りきれていないものは、
スクラップにまとめているのだそう。
「また行きたい」
お話のなかで、奥さんにとってのターニングポイントと思われるエピソードがあった。 「去年の9月だったかな。(気仙沼横丁の立ち上げにあたり)みんなで研修だーってことで、八戸にある『みろく横丁』に行ったんですよ。店に立って体験してみなさいってことで、飲んだり食ったりしながら接客したんです。でもそれだけじゃ物足んねぇからって家族でもう一回行って。もう少し勉強・・・もう少し飲み会したいねって(笑)。で、結局その日は4時までやっちゃって。楽しいとこだよ。よくお客さんも来てて。1年前に2回行ったけど、また行きたいもの。」
恐らく、奥さんはこの『みろく横丁』に多大な影響を受けているようだ。何で、そう思うか。僕自身、この気仙沼横丁に「また行きたい」と、既に思っているからだ。 「大漁丸の料理をもっと食べたい。でもこの調子じゃ、横丁の他のお店だってきっと美味しいはず・・・。」
そして既に悩ましい。
みろく横丁(青森県八戸市)
翌々日の夜、僕は八戸にいた。JR本八戸駅から徒歩10分、『みろく横丁』を目指す。本八戸駅周辺は商業ビルが立ち並び、車どおりも多い。都会的な機能を持つ八戸の中心地だが、『みろく横丁』は赤い提灯がぶら下がり、木造の飲み屋からは暖かい光が漏れる。既に肌寒い季節に差し掛かっていたものの、ぬくぬくとした雰囲気が伝わってくるのだ。
甲乙がつけがたい
八戸市、国道340号線沿いにある『みろく横丁』。ビルとビルの間に26のお店が立ち並ぶ。
店内からは「関西人顔負け」の呼び込みが。
狭い通りを歩くと、店員からの呼び込みが掛かる。 「いらっしゃい。どうぞ、美味しいですよ!」
「お兄さん、せんべい汁はもう食べた?」 「八戸港で水揚げされたイカ、ほら、ほら。」
関西人の僕としては、こういう呼び込みの文化は関西独特のものだと思っていたが、そうでもないらしい(笑)。関西を離れて数年。“レトロ”とはまた違う“懐かしい”ノリも手伝ってか、既に居心地が良かった。 気仙沼横丁は直感ですぐ店を選べたのだが、みろく横丁はとことん迷った。どれも、良い雰囲気であることには間違いないが、だからこそ、見た目だけでは甲乙が付けにくいのだ。なんとなく、「ゆっくりお話が聞けそうな店」を探し、どうにかこうにか入る店を決めた。
◆◆◆ どこのお店にも共通していたが、僕がお邪魔した「懐かし屋」も店内は少し狭く、カウンターも近い。半纏を着た奥さんがメニューを伺い、調理までこなす。奥さんと言うより、「おふくろさん」と言った方が似合うかもしれない。僕はやはりお酒は飲まないのだが、ウーロン茶を一気に煽って「プハーッ」とすると、我ながらよく似合っていた。
専門家ではないので分析までは出来ないが、印象的だったのは、暖色の雰囲気やちょうどよい狭さ、家庭的な雰囲気と日本酒、そして何より旨い料理、などなど。こういったものを日本人は本能で好むのかも知れない。 名物のいかの刺身、ほや、せんべい汁、そして好物のたこのから揚げ。これらをつまみながら冷えたウーロン茶できゅっと締める。酒飲みに「これでお酒が飲めないなんて人生の半分以上損してる」なんて言われそうなシチュエーションだが、それでも僕はこれで満足だった。