坂手島・静かな浜で島の奥様と話す。
降り立った坂手島の海沿いを歩いていると、集落から離れていく方向に島民らしき2人を見つけた。「島民らしき」などと述べたが、夕方も17時を過 ぎており、島民じゃない人間を探す方が難しいかも知れない。まして、肩からエプロンをかけたまま歩いている観光客もいないだろう。挨拶をしてみると「良い景色があるから一緒に見に行こう」となった。
島の人々と話をするとき、どうしても外から様子を伺ってしまうのだが、小さい島であればあるほど、気さくに話してくれる印象がある。坂手島でも同様だっ た。向かったのは丸山崎と呼ばれる島の東側。島の奥様方2人はここへ毎夕通っているそうだ。しかしこのお2人、よく喋る・・・。
「へぇーわざわざこんな島にきてくれたのね。しかも1人で。」
「住むには不便な島よぉ、これでもましになったけど。」
「昔は水道も無くて。」
「よく勘違いされるけど、この島は海女さん1人もいない。でも鳥羽市は海女さんでPRしちゃうから、看板のイラストも海女さんでしょ?」
「でもほら、ここは遊ぶには何もない島でしょ?」
「そうそうお客さんものんびり釣りとかしたら帰っちゃうし。」
「そういえば、ほら、この前アンケートきたじゃない。この島をよそにアピールするためにはどうすれば良いか・・・みたいな。」
「えーそんなのあったっけ?」
「あったわよぉー。」
「ごめんねぇ、観光に来た人とふだん話すことなんかないから、喋りすぎちゃって。」
現在住んでいる建物の隣人すら喋ったことの無い僕だが、こういう島では不思議と話せるもの。それにこの島は昔は水道が通っていなかったようで、井戸水を共有 していたころの名残か、洗い場や洗濯機がどの家もみな外に出ているのがうかがえる。朝から昼にかけての家事を通じて、島の奥様方は外に出て洗い物をしていたのうだろうか。なんとなくその光景もイメージがわく。おそらくご近所関係も良好なのだろうなぁ、などと想像してみたり。
「私たちこれを毎日見てるから。」
そうこうしているうち、その場所にたどり着いた。この一帯は丸山崎と地図に書かれているが、海水浴場もあり、訪れる人々がプライベートビーチ感覚 で泳ぐのだそう。何の変哲もないビーチではあるが、静かでのどかで素敵・・・と、月並みな感想を抱いたのだが、さすがに地元民の視点は違った。
「ほら、見て。この太陽が沈むころに赤い光が差し込むでしょ。あれがね。」
「そう、これがいいの。毎日ちょっとずつ色が変わってね。」
確かに島というと、どの島も夕陽が水平線に沈む様子がよく見れるため、ついつい西へ見に行ってしまうが、ここは島の東側。夕陽は確かにまったく見え ないのだが、その夕陽から漏れた光が海に差し込み、踊る波を照らしている。こういう角度で夕陽を楽しむなんて発想はなかった。
「はぁー綺麗ですね。」
僕はひと言、そう言った。
「でしょう。私たちこれを毎日見てるから。」
「ここは”ケモノ浜”って言う名前だったかな。漢字でどう書くかは忘れちゃったけど。」
「で、左に見えるのが答志島。正面に見えるのが神島。右に見えるのが菅島。」
「なんか今日は神島がはっきり見えて、近く感じるわねぇ。」
「でもこの景色は昔から変わらないね。」
2人から出てくる言葉は尽きなかった。色々話したあと、僕は帰りの船が出るのを待ちに、奥様方は夕飯の時間だからと丸山崎を離れた。最後に色々お話を伺ったお礼を言うと、
「いやぁ、島でこんなに若い男の人と話したのなんて何年振りかしらね。」
「ごめんねぇ、若い男の人とふだん話すことなんかないから、喋りすぎちゃって。」
・・・ん?モテてたのか!
坂手島
この島から見える夕景がたまらない。
まだまだ「島記事」あります。
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