2016年に開催された第71回国民体育大会「希望郷いわて国体」で、釜石は女子ラグビー(7人制セブンス)の会場になった。もちろん鵜住居地区に建設中の競技場ではなく、釜石シーウェイブスの本拠地である釜石球場での開催。平日の試合だったが、地元小学生の応援団のほか、地域のおじさんやおばさんたちが観戦する姿もあった。
試合を見ていると、近くに陣取っている市民観戦者たちの交わす言葉が聞こえてくる。それがまあ何と言うか、実に鋭い解説をしてくれるのだ。
「あの6番、いい選手だな。しっかりマークしないとやられるぞ」と言ってる矢先に、その6番がチャージしてボールを奪うとゴールまで独走する。
「赤い方もがんばってるけど、やっぱりな、白の方が地力に勝るから後半は一方的だろうな」
前半は競った展開だったのだが、ハーフタイムにひとりのおじさんが呟く。「んだな」とほかのおじさんたちも頷く。果たして後半は、白いジャージのチームが立て続けにゴールを決め、大差での決着となった。
「オールドファン」という言葉をなつかしく思い出した。もちろんいい意味でのオールドファンだ。たくさん試合を見てきたから、駆け引きや試合の流れが読める。選手の力量を見抜ける。試合の見所がどこなのかが分かっている。
ワールドカップの誘致が決まった頃、釜石市は市を上げてワールドカップを盛り上げる活動をセーブしていた。県庁所在地の盛岡市に開催までのカウントダウン看板が表示されたときも、釜石市ではこれといった動きがなかった。それは被災からまだ日が浅いから。市民の中には諸手を上げてワールドカップを歓迎する人たちばかりではないという判断が働いていたからだ。
国体が開かれたときもそうだった。ラグビーを通して町を盛り上げようとしていた団体ですら、ちょっと控えめだったくらいだ。
でも、ラグビー城下町と呼ばれた釜石にはオールドファンがたくさんいる。たとえ見慣れた15人制でなくても、たとえ選手の顔すら知らない他県のチームの試合でも、見つめて止まない熱い思いを持った人たちがいる。
ようやくスタンドが姿を現し、ワールドカップが来年に迫ってきたことが肌で感じられるようになってきた釜石。ラグビーへの思いが、ラグビーについて語る言葉が、これからの釜石での「仲間づくり」「まちづくり」につながっていくことは、たぶん間違いないだろうと確信した。
ラグビーワールドカップを通して、いいまちとして甦った釜石は、しっかり地図に刻まれるまちになるだろう。