音楽から戦争を考える_メタリカ

西部戦線(ベルギー南部からフランス北東部にかけて)の戦場

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アメリカのヘヴィメタル・バンド『メタリカ』が1988年に発表した『ワン』という曲のプロモーションビデオは、私にとってとても衝撃的なものでした。

この曲はドルトン・トランボの反戦小説『ジョニーは戦場へ行った(Johnny Got His Gun)』からインスパイアされて作られたそうで、プロモーションビデオには映画化された『ジョニーは戦場へ行った』が所々で使われています。

映画の内容

第一次世界大戦で徴兵により出兵した主人公ジョー・ボナム。

彼は敵の砲弾により目(視覚)、鼻(嗅覚)、口(言葉)、耳(聴覚)、両腕、両脚を失いますが、一命はとりとめチューブによって生かされます。

触覚を除くほとんどの知覚を失い、今がいつで自分がどこにいるかもわからない状況の中、ジョーはだんだん意識を取り戻していきます。

しかし、医師や看護婦はただ心臓が動いているだけの肉体だと思い込んでいます。

そんななか、自分に意識があることを伝えようと、唯一動かすことが出来る頭を振ってモールス信号を送ります。

それに気づいた看護婦が軍部の上官を連れてきます。

「SOS...SOS...」

ジョーのモールス信号により意識があることを知った上官は、ジョーに望みをたずねます。

「外に出て人々にぼくを見せてくれ、できないなら殺してくれ」と返すジョー。

それはできないことだと上官が伝えると、「殺してくれ。殺してくれ。」とジョーは訴えます。

しかしその望みも叶うことはありません。

戦争の悲惨さを感じるプロモーションビデオ

Metallica - One [Official Music Video]

題名の「One」は「孤独」という意味と、地雷(映画では砲弾)により手足を失った「だるま」という意味があるのだそうです。

暗闇と無音の中、自分では何もできず、死ぬことすらできない。

やっと自分の希望を伝えたにもかかわらず、死ぬことすら叶わない。

あとどのくらいあるか分からない時間を、社会とは隔離されて孤独に過ごしていかなければいけない主人公の悲痛な叫びが感じられます。

気が狂うような状況を、すさまじい映像と、美しくそして激しい旋律で表現していて、聞いていて胸が痛くなります。

映画の中の話ではあるけれど、命があってよかったとはとても思えないような状況が、戦争によってもたらされることを考えさせられます。

平和や反戦の曲はいろいろありますが、これほど重苦しいプロモーションビデオを私は知りません。

全く救いがなく、戦争には何も残らないことを思い知らされる曲です。