6年を経て、ようやく動き始めた町

ほんの数カ月の間に町の姿は一変する。とくに被災地では。

いわき市久之浜を訪れたのはほぼ3カ月ぶりなのに、まるで別世界に思えるほど景色は変わっていた。旧浜街道沿いにお店や民家が建ち並んでいたのは、震災前の景色として見せてもらった写真の中にある記憶。実体験をとおしての記憶の中にある久之浜は、鉄筋コンクリート造などの何軒を残して失われてしまった町。

それがここ数年、いや数カ月のうちに景色がどんどん変わっていく。

海岸近くに風除けの柵が立ち並ぶ風景なんて、ほんの半年前の久之浜では想像できなかった。古い映画ファンにしか通じないかもしれないが、この風除け柵は「小さな恋のメロディ」でマーク・レスターとトレーシー・ハイドがデートに行った海水浴場を思わせる。

でも、この柵が作られている目的はそんなロマンチックなものではなく、植栽堤防を造るためのもの。コンクリート堤防をわずかに上回る高さの土盛り堤防に植えられた樹木を潮風から守り、成長を促すためのもの。

久之浜では、コンクリート堤防が完成する以前から海岸沿いでの植栽試験がこれまで行われてきた。うまく根付かず全滅した場所もあるという。それでも植栽による緑の堤防という方針は貫かれている。

海岸沿いの植栽を守るための風除け工事は、いまも続けられている。試験植栽の頃よりも太い杭、頑丈そうな柵。それでも工事を見守る地元の人たちの間では、「どんなに丈夫に造っても、木が伸びる前に朽ちてしまうんじゃないの」という声も聞かれる。植栽を堤防に活かすコンセプトには同意できても、吹きっさらしの海岸沿いにいきなり小さな苗木を植えることを疑問視する人も多い。

それでも工事は進んでいく。かつて久之浜の姿からは想像できないような新しい景色が生まれていく。

オープンを間近に控える久之浜の新しい商店街「浜風ひらら」の建設中の窓にも、海辺に長く連なる柵が映り込む。

海岸線沿いに並ぶ木の柵、小さな苗木は、この町の現在を象徴するもののひとつだと言えるだろう。と同時に、新しく生まれる商店街の将来ともリンクしているような気がする。

なれるものなら魔法使いになって、この小さな苗木がすくすくと伸びていく魔法を唱えたい。「復興」のかけ声がほとんど聞かれなくなるかもしれない数年後までに、海岸沿いに緑の森が育つように。風除けの柵が朽ち果てるよりも早く、緑の堤防が完成し、この場所が地域の人たちの憩いの場所になるように。そしてこの町に、老若男女を問わず多くの人たちの笑い声が響き渡るように。

いまはただ、予定通りに緑の防潮堤が完成し、町には新たな商店街や人々の住まう場所が整備され、遠からず復興はなされるのだという計画を信じるほかないのだが。