車は、いざという時にすぐに逃げられるように停めなきゃ

何気ない日常の光景から被災地の実情が見えてくる。

写真は夕暮れ時の大型スーパーの駐車場。写っている車はすべて前に向いている。つまりバックで停めて、前進で出庫できる方向に停められている。

東北の被災地では駐車している車の多くがこの形。私自身、東北に来たばかりの頃、前進して車庫に停めようとして助手席の先輩から注意されたことがある。どうしてバックで停めなければならないのか、その理由は……

「万一の時にバックで車を出すのは大変だろ。駐車場も混乱してしまうし。いざという時に素早く逃げるために前進して出庫できる方向に停めなきゃ」

非常に説得力のある言葉だった。いちいちバックで駐車するのは面倒くさいかもしれないが、面倒なことは余裕がある時に済ませておく。地震や津波への「備え」としての後退駐車というわけだ。

しかし、地震の際に自動車で逃げるのは危険だと言われている。政府の防災の指針でもそう示されていたはず。それなのにどうして津波を経験した人たちが、車で逃げることを前提とした駐車の仕方をしているのだろうか。

車で逃げることの危険は、被災地の人たち自身よく知っている。東京の専門家たちに指摘されるまでもない。車で逃げて亡くなった人を何人も見ているのだから。

しかし、地震などが起きた際の避難行動は、安全な避難場所までの距離や逃げ道として使える道路の本数、周囲の交通事情など様々な条件で変わる。一様に車での避難はダメと言えることでもないし、徒歩で逃げたせいで津波に巻き込まれたりしたのでは本末転倒だ。それに、被災した後に車がないために強いられた苦労もまた深刻だった。

すぐに逃げられるようい前向きに停めていても、何百台もの車が駐車場の出口を目指したら、あっという間に道路はふさがってしまう。そんな時には車を捨てて逃げるしかない

車で避難することの危険を身にしみて理解している被災地の人たちが、車避難を前提とした駐車の仕方をしたり、ガソリンを常に満タン近くにしておくことには、一言では説明できない深い意味がある。

駐車場で車が前向きに停められている光景は、いつどこでどんなことが起きても、臨機応変に対応しなければならないという震災経験者の心構えと、悲惨な出来事を繰り返してはならないという苦悩の現れなのかもしれない。