今年も開催される陸前高田気仙町の「けんか七夕」

山車が置かれた駐車場には投光器まで用意されいる。

これから夜通しで飾り付け作業が始まるのですかと若手に聞いてみると、「いや、それはどうでしょうか」との返事。先輩格の人が質問を引き取って答えてくれた。

「飾り付けはずっと後。祭り本番の前日あたりですよ」

じゃあ今日は梶棒の取り付けですか?(こんなことを聞いて、生半可なことを言ってやがると思われたに違いない)

「それもまだ先。今日は藤蔓(ふじづる)を巻く作業です」

藤蔓というのは読んで字のごとく藤のつる。山に自生している藤の木から、太くて丈夫で、しかもある程度のしなやかさを持っている藤のつるを取ってきて、山車に巻き付ける。それもただ巻き付けるという単純なものではない。ネジやボルトのない時代から続いてきた七夕の山車は、昔から材木を藤蔓で締め上げて造られてきた。

藤のつるは梶棒を山車に括り付けるだけじゃなくて、山車そのものを強化するわけなんですね。

「うん…まあ、そういうことです。あ、作業が始まるみたいなんで…」

言われてみればブルーシートが外された山車は、ぶつかり合う祭りを戦うには少し華奢な印象だ。昨年のけんか七夕の山車の写真を見てみると、たしかに梶棒だけでなく山車本体も藤蔓で頑丈に補強されている。梶棒が相手にぶつかる武器だとすれば、藤蔓は相手の梶棒を受け止める盾のような存在。藤蔓がしっかり巻かれることで山車は「けんかの山車」になる。

つると言っても藤蔓は固い。しなやかさはあるものの木そのものと言ってもいい。それを人間の思いどおりに曲げたり巻き付けたりするわけだから大変な作業だ。だからこそたくさんの男たちの腕と力が必要になる。

祭りは当日に人手が必要というだけではない。準備の段階から多くの人の手と力と思いを結集しなければ行うことはできないのだ。

シートの下からつるが現れる。傍らには藤蔓を叩く木槌を手にした男性の姿も見える。これから始まる大変な力仕事を前に、祭りの準備と言っても和やかな雰囲気はない。

900年の伝統を誇る祭りの準備。毎年続けられてきた作業。今年はそれが、これまでとは違う場所、違う条件の下で進められる。

それでも——。という「——」の部分に、この場にいる人たちの決意が満ち満ちている。山車。藤蔓。工事現場の中にある七夕の舞台。見つめる人々の厳しい眼差しは、ずっと先をも見つめているに違いない。

2016年のけんか七夕会場