陸前高田市の沿岸西部に位置する長部は漁業を中心とする集落だった。津波に大きな被害を受けた集落の背後の山の上に、長部の新しい町の建設が進んでいる。
山を切り開いて造成された土地はいま住宅の建築ラッシュ。新築工事が進められる各区画には色とりどりのハウスメーカーの幟旗が揺れている。すでに、新築なった住宅に仮設住宅から引っ越しした人もいるそうだ。
この新しい住宅地は海側を走る国道45号線からは直接見ることはできないが、思いのほか高い場所にある。
住宅の裏手には急斜面。そして住宅とほぼ同じか少し低いところで建設が進むのは、三陸自動車道(高速道路)の高架橋だ。
三陸自動車道は海辺を避けるように市街地よりもはるかに高い場所を走っている。その三陸道よりもさらに高い場所につくられる新しい集落。まさに雲の上の住宅地だ。
高架橋の工事を住宅地から見下ろすというのは、なんだか不思議な感じもする。この公園は避難場所にもなっていて、その標高は海抜37メートル。
高速道路より高い場所にある集団移転住宅地。これだけの高さなら津波の心配はほぼないと考えていいかもしれない。しかし、海で働く人たちにとっての職場である海辺から家までの間には約40メートルの高低差がある。
海沿いで元々土地が広くないから坂道は急斜面。ギヤをセカンドに入れても車のエンジンはうめくような音をあげるほど。しかも住宅地からは海が見えない。
雲の上の住宅地と海辺の往復という新しい生活パターンに耐えられるのか。漁業の問題だけではない。高齢化が進む中、土地の高低差が生活のバリアになりはしないか。さらに陸前高田市全体の人口が減少することでショッピングや医療などのサービスが低下してしまったら、集団移転先が高台の孤立集落になりはしないか。
津波災害が繰り返されてきた三陸地方で、吉浜のようなごく一部を除いて高台への集団移転が成功しなかった歴史を塗り替えることができるのか。10年、20年後が問われている。