駐車場に面した正面入り口からショッピングセンターの中に入ると、ケーキ屋さんの隣にある階段にはこんな表示がある。
「この階段は津波警報時、屋上まで避難できます」
その上には「最大の津波高さ【2.8M】」との表示。
店内を歩くと、津波到達高さを示す表示が何カ所かに掲げられていた。
津波のイラストが描かれた目立つものだけではない。最も浸水した際の水位を示すやや地味な表示もある。ショッピングセンターのテナントの壁であってもそれは例外ではない。下の写真は手芸店の壁面高い所に表示されていたもの。
2.8mという高さは、手を伸ばしても届かないかなりの高さ。入り口ドアよりも遥かに高い。
ここはイオン気仙沼店。気仙沼市街の平坦地から高台へのぼって行く入り口、といったロケーションにあり、毎日多くの買い物客が集まってくる。小雨降る日の夕方でも、主婦や仕事帰りのサラリーマン、学校帰りの高校生たちでにぎわっていた。遠洋漁船乗り組みの外国人船員の姿が見られるのは、漁業基地である気仙沼ならでは光景かもしれない。
たくさんの人たちが集うショッピングセンターで、しかも2.8mもの浸水被害があったのに建て替えもせずに営業していることに疑問を抱く人もあるかもしれない。いくら建物に被害がなかったとしてもだ。
しかし、イオン気仙沼店は震災直後の4月1日から、屋上に仮設の売り場をつくって営業を再開した。浸水しなかった2階部分も5月には営業再開した。多くの店舗が被災した気仙沼の町にあって、イオン気仙沼店は市民の買い回り拠点としてなくてはならない存在だったことがわかる。
2.8mもの浸水がありながら建物に大きな被害が生じなかったのは、津波が激しい勢いでぶつかって来たのではなく、浸水による被害が主だったという幸運によるところも大きいだろう。しかし、天井近くまで浸水した1階部分は瓦礫に埋もれ、営業再開まで震災から半年以上を要したという。
津波被害を受けた土地を離れ、新たな場所で再建するか、土地のかさ上げなどを行って建物を建て直すか、あるいは対策を施した上で現地での早急な営業再開を目指すのか。
その決断は、企業の姿勢はもちろん、被害の程度や住民のニーズなど様々な要素から行われたのだと思う。ここイオン気仙沼店は、現地再開という道を選択した。そして再開後も地元の人たちの買い物の場として賑わっている。
過去の経験をどう生かし、将来の災害にいかに備えるか。導き出される答も、答を導き出す方法も一様ではない。そのことをイオン気仙沼店は示しているように思う。
「この階段は津波警報時、屋上まで避難できます」と示された階段を上っていくと、2階の踊り場にも同様の表示がなされていた。
さらに階段を上り、建物の3階に当たる屋上に出る。かつて屋上店舗としても利用された場所だ。
山が平地に迫る印象のある気仙沼の町だが、この屋上から眺めると、平らな土地が広がっていて意外なほどだった。川の近くに建てられた10階建ての高層災害公営住宅「南郷団地」も見渡せる。
災害に強い町と、住民が暮らしやすい町。そのコンセプトが対立するものであるのかどうかも含めて、気仙沼に来た時にはぜひ訪れてほしいショッピングセンターだ。