【シリーズ・この人に聞く!第75回】世界に「禅の作法」を説くバイリンガル雲水 星覚さん

悩み、ストレス、憂鬱な気分なく過ごしたい。そして心身共に美しく生きてゆきたい。縛りの多い現代人の心は、「禅の教え」から対処の仕方、解決法が見えてきます。ただひたすら美しい作法を日常に取り入れるだけで、健やかに、輝く、幸せな人生。こんな「禅の作法」を日本だけでなく、世界各国に伝えているのが今回ご紹介する星覚さん。ご自身も昨秋パパになったばかり。誰でもできる一日一禅、日本へ託す思いを伝えて頂きました。

星覚 (せいがく)

雲水(うんすいとは禅の修行僧のこと)
1981年、シンガポール生まれ。幼少時代をポーランド・イギリス・鳥取県で過ごす。慶應義塾大学卒業後、曹洞宗大本山永平寺にて3年間の修行を経て、中国、アメリカ、ポーランド、ドイツなど多くの海外道場に参禅。都市生活の中で修行を続け、現在はベルリンの道場での坐禅指導を中心に、ワークショップ、カウンセリング、パフォーマンス、執筆など様々な活動で禅を世界に伝えている。インターネットのお寺「彼岸寺」(higan.net)の企 画運営、ウェブマガジン「雲水喫茶」(unsui.net)のマスターも務めている。清涼山天龍寺国際部部長。2009年UPSアカデミー卒業。

「ラストサムライ」の侍とは…突き詰めた末、禅の世界へ

――星覚さんは大学卒業後に永平寺へ修行に行かれたと聞いてます。俳優としても活動されていますよね?イケメンのバイリンガルとしたら、もうそれ以上何を求めるんでしょ?なんて思いますが、何がきっかけで禅の世界へ?

本の冒頭でも書いていますが、僕は小さな頃から「人から認められたい、ほめられたい、誰にも負けない能力を身につけたい」と常に満たされない何かを求めていました。俳優として評価されたかったし、もっと素敵な女性と付き合いたい、もっと金持ちになりたい、もっとちやほやされたい…そういう欲望が強くて。でもある時、尊敬する演出家の奈良橋陽子さんから「余計なものを取り除いていくのが俳優だ」と教えて頂きました。その方は当時、映画『ラストサムライ』を撮影していたのですが、お金で買えない「侍」という存在は一体何だろう?と調べ始めて…すると道元禅師につながりました。道元禅師が伝えていることと奈良橋さんが言っていたことが見事にシンクロして胸に響きました。それをもっと知りたくて就職活動はせずに、大学卒業後すぐ永平寺へ修行に行きました。

現在、ドイツで禅道場を開く。国境を越えて禅の教えを説く。

――禅に出会ったことで「にぎりしめ、着飾っていく生き方から、手放し、磨きおとしていく生き方へ変わった」と本にも書いていらっしゃいますね。永平寺の生活とはどういうものですか?

楽しさも苦しさも五感に映る一日のすべてがキラキラ、イキイキと輝き始める…そんな毎日です。禅といっても特別な秘法ではないのです。僕は具体的に、生活の所作をひたすら行うだけで、欲をコントロールする術を知りました。なんとかこの秘密を都会に住んでいる人にも伝えたい…と、多くのお寺に足を運び、禅のあり方を学ぶうちに、誰もが禅を日常生活に活かす方法があるのだと確信しました。それを2年がかりでまとめたのが今回送りだした本です。禅は磨き落として行く作業なので、何年永平寺にいても足りないものです。

――禅というと坐禅を組むことや精進料理なんてことばかりイメージしますが、日常的な作法なんですね。おもしろいなーと感じたのは朝起きてから夜眠るまでの作法…たとえば挨拶の作法なども事細かに決められていて、それがとても日本ならではの奥ゆかしさ。誰もが忘れている心意気が詰まっているなーという点でした。

禅は身体と心がほどけて一つになるプロセスなんです。身体の動きを調えていけば、心も自然と調っていきます。禅寺の三つの基本「三進退」は合掌・叉手(しゃしゅ)・法界定印(ほっかいじょういん)。座ってる時、立って歩く時、祈りを込める時の手の姿勢のこと。これを身体で覚えることで、日常の所作すべてを美しくする基本が培われます。こんな言葉があります。

・所作が変われば身体が変わる
・身体が変われば行動が変わる
・行動が変われば態度が変わる
・態度が変われば習慣が変わる
・習慣が変われば人格が変わる
・人格が変われば運命が変わる
・運命が変われば人生が変わる

海外で育ち、学校の勉強ができた理由

――星覚さんはシンガポール生まれの帰国子女で?幼少期はどんな習い事をされていたんですか?

それがほとんど幼少期の記憶がないんです。幼稚園と小1から5年生の途中までは鳥取県米子市の公立小学校に通っていましたが、外で遊んでいてなかなか家に帰らなかった記憶はあります。公文や書道、そろばん、体操教室など通っていたようですがはっきり覚えていません。親としては投資のしがいがないですよね。小5の終わりに父親がポーランドで仕事をすることになって。小6の時はワルシャワの日本人学校へ通いましたが同級生は2人。中1になって僕の学年が一人になって。父は現地の日本人学校で校長を務めていて、いろいろ複雑な思いがあったようですが、中2の時にイギリスにある立教英国学院というカソリック系の全寮制スクールへ僕を一年間通わせてくれました。このことには両親に本当に感謝しています。中3で再び鳥取県に戻って公立中へ転校しました。

1才頃、母に抱かれて記念写真。傍らは2歳違いの姉。

――中学校を毎年転校で3つも変わっていたら学校の勉強についていくのも大変じゃないか?と普通は思いますが、いかがでしたか?

学校の勉強が難しいと思ったことは実は一度もなかったんです。塾にも行っていませんでしたし、父にも母にも「勉強しろ」と言われたことは一度もありません。日本に戻ってきて高校受験も地元の進学校、米子東高校へ進みましたが、成績もよかったので受験の心配はしていませんでした。
その理由は2つあって、ひとつは海外で通っていた日本人学校の「自分自身の問い」を大切にする教育方法がとても大きな影響を与えていると思います。学年で僕一人というのがかなり長かったので、そうすると全科目先生とマンツーマンでの授業になるので居眠りをしたり、ごまかしたりがきかない。わからないことは全部聞かざるをえない環境で、自分の中の素直な問いから出発する勉強法が身についたのです。
もう一つは、真似ることです。歯医者の息子の岡本君という幼稚園からの親友が僕の隣りに座っていたんですが、彼はとても優秀でした。僕は授業中にノートの一字一句まで岡本君の真似ばかりしていた。禅寺でも『学ぶことは真似る(まねぶ)ことだ』という教えがあります。だから彼のおかげでもあります。あまり勉強していなかったのに成績がよかったのも、そのあたりに秘密があるのかもしれません。

小学5年生の終わりにポーランドへ転校した頃。サッカーが大好きな少年時代。

――恵まれていましたね。ではお友達との関係は?そんなに頭も良くてカッコよくてイギリス帰りで…田舎の学校にいたら目立つでしょうし、ひがまれちゃうでしょう?

小学5年生の終わりまでその土地で育っていたので、昔からの友達は「イギリスから星が帰ってきたぞ」みたいに迎えてくれました。帰国した直後は確かにもてました。付き合うってどういうことかもわかりませんでしたし、恥ずかしかったので素っ気なくしたりして、今思えばとてももったいないことをしました。
一方でいじめにも遭いました。微妙に話題が違ったようで部活動でも浮いていたかもしれません。合わないこともありましたが、そんな時に支えてくれた昔からの友達とは今でも仲良くやっています。

――やっかみ半分の意地悪だったんでしょうね。で、高校ではまた新しい環境になってどんなことを?

進学先の高校は鳥取県西部地域からいろんな人が集まる学校で、すごく楽しかった。バスケット部に所属してバスケばかりしていました。大学は運良く指定校推薦で慶應義塾大学へ進学しました。その年他に誰も希望者がいなかったのと学校の成績だけは良かったのが響いたのでしょう。定期テストは範囲が決まっているので、教師の気持ちになって問いを考えある程度内容を予想していました。出題範囲が広く暗記の多い模擬テストの成績は大変悪かったのです。

3.11後の子育ては『どっしりゆれる芯をもつ』

――星覚さんは昨秋お子さんが産まれて新人パパですね。3.11以降、子育てする環境も意識もガラリと変化せざるを得ませんが、これからの子育て。どんなお考えをお持ちですか?

僕らの子どもたちは、僕らが想像もできないような世界を生き抜いていくことになると思います。その時に一番大事なものは『どっしりゆれる芯をもつ』ということではないでしょうか。矛盾しているようですが、色々な価値観やご縁の中でまず周りを大切にして、相対的にバランスをとりながら自分の芯を瞬間瞬間定めていく力です。

禅は磨き落として行く作業で、何年永平寺にいても足りない。

――周りの支えがあって芯ができる…という考え方、とても胸に落ちます。そうした思いをお子さんに伝えていかれたいのですね。

僕は宗教や宗派を超えて、世界共通の真理を人は持っていると思います。それはキリストとか、アッラーとか、ブッダ…などという限定された芯ではなく、同じ地球に生きる生き物として持っている一つの心。そういったものを共有していれば、自分をしっかりと持ちながらいろんな人とわかりあえます。たとえて言うなら、法隆寺の五重塔の心柱のようなもの。どんな大地震でも倒れないのは周りと一緒にしなやかにゆれることで常に相対的に共鳴しているバランスの強さです。人間のあり方も同じで、喜びも悲しみも共に分かち合い、一つのものとして共振していくことがこれからを生きていく上で大切だと思います。

――子どもの習い事を考える同世代の親へ伝えたいことはどんなことですか?

一番大事なことは、親も子どもも自分自身を学ぶこと。海外の暮らしを経験して一番よかったことは、日本をよく知ろうとか、自分をよく知ろうと思えたこと。外に求めようとするときりがないけれども「いま、ここにいる自分」は唯一。それがベースにあると、何でも上手くいく。たとえ「上手くいかなかったとしても上手くいく」のです。周りの評価ではなく、自分自身の声を聞くようにする。それは身体の声を聞くことにもつながります。

――本当にその通り。私も3.11前後に体調を崩してみて、初めて体の声を聞く大切さを知りました。3.11後に日本を離れて雲水として感じることはありますか?

何が本当かわからない時代だからこそ、自分の身体と心、つまり続いていく命を最優先に行動するべきです。命よりも社会システムが優先されるのはおかしなことです。現状は仕方がなくても疑問をしっかり抱いて、おかしいと気づいて動く時期にきていると思います。憤りを表現する方法を知ることも大切です。怒りを覚えるときにはそれを他にぶつける方法もありますが、何が怒りを生んでいるのかを丁寧に観察して「やらない」という方法を とることもできる。例えば電力のあり方やごみ処理の問題に怒りを感じたらまずは自分のどんな行為がその問題につながっているのかを考え、少しでも自分自身の行動を変えてみる。
僕は二年前から「コンビニでは一切モノを買わない」「500mlのペットボトルは購入しない」といった「やらない」ルールを決めています。ただし、押しつけたり執着せずに「他の人が買ってくれたらありがたく頂いちゃう」くらいに緩く考えるのがポイントです。不便だけれども水筒を準備したり、まとめ買いをする時間を決めたり、色々な工夫や発想が生まれるし、何よりお金がかかりません。
一人ひとりが「やらない」という行動を通して、余計なものを手放していけば、皆が共通して持っている身体の声が磨きだされてくる。そういうささやかな変化が共振を生んで、世界を変えていくのだと思います。

編集後記

――ありがとうございました!禅の心は本当に奥が深い。著書にはさまざまな基本的な作法をはじめ、巻末には「恋愛の悩み」に禅の心で応える星覚さんのコメントが非常に興味深く、日常過ごす人の心をすべて解きほぐすカギが、禅には潜んでいるのだろうな~と感じました。握りしめていたものを手放すことで、ささやかな変化が起こる。手放すはずなのに、逆に心豊かになっていくものです。一時のブームではなく、禅の心を今一度見直して、これからの生活に役立ててゆきたいものです。

取材・文/マザール あべみちこ

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