【シリーズ・この人に聞く!第55回】未来のサッカーW杯出場選手を育てる 川崎フロンターレ U-12監督 高﨑 康嗣さん U-13監督 大場健史さん

2010年FIFAワールドカップ、日本は歴史に残る善戦を繰り広げました。國を熱狂の渦に巻きこんだサッカーというスポーツに、寝食を忘れるほど打ち込む子どもたちがいます。そんな未来のサッカーのサッカー選手を夢見る子どもを育成する監督お二人に、プロを目指す子の心構えと練習方法、どのように指導をされていらっしゃるのか、お聞きしました。

高崎 康嗣(たかさき やすし): 左

1970年4月10日生まれ。
茨城県立土浦第一高校を経て東京農工大学卒業。筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻修了。1997年から土浦第一高校コーチとして指導にあたる。その後、筑波大学、東京大学、東京都学生選抜などでヘッドコーチを経て2002年より川崎フロンターレスクールコーチ 兼 Jr.ユースコーチ、2004年よりスクールコーチ 兼 U-12県トレセンコーチ 兼 U-12関東トレセンコーチ、2006年より現職。日本サッカー協会公認A級U-12ライセンスをもつ。
家族は、妻、一女(4歳)。

大場 健史(おおば けんじ): 右

1967年8月14日生まれ。
神奈川県立旭高校卒業後、日産FCへ入団。その後、住友金属FC~鹿島アントラーズ~柏レイソルを経て、川崎フロンターレへ。1999年から川崎フロンターレスクールコーチ・Jr.ユースコーチとして指導にあたる。2000年よりU-18ヘッドコーチ、2006年よりU-13監督、2007年よりU-14監督を経て、2008年より現職。日本サッカー協会公認A級ライセンスをもつ。
家族は、妻、一男(中2)、一女(小1)。

選抜されてプロを目指す子に求める力

――監督が育成されているサッカー少年は、厳しい選抜テストを合格した子どもたちです。どんな基準をクリアした子が合格できるのでしょう?

高崎:運動能力(スピード、大きさ、強さ)、技術力、判断力など特徴のある選手です。毎年同じ能力の子が集まるわけではないので、譲れない基準は一定にありますが、何かの力が秀でていれば目に留まります。

学校の部活動ではなく、ここでサッカーをするのは目指すものが明確だから。子どもたち皆の目標はW杯出場!

大場:コントロール・キック・ドリブルなど技術レベルはもちろんのこと、身体が小さくても大きくてもその選手に特徴があることです。身体能力・スピード・判断スピードなど、常に考えてプレーしているかを見ています。負けず嫌いな気持ちは大事なポイントです。

トレーナーの指示でヘディングの練習。ボールを頭で受けて手をつき、転がる。転び方にも技術がある。

――選抜試験にはどのくらいの子どもが受けて、合格するのでしょうか。

高崎:各学年で150名以上受けますが、合格する子はほんの一握りです。
特に枠があるわけでなく、良い選手と思えば合格になります。もちろん、たくさん入部できるわけでもありません。U-12の今年の場合は1名の合格者でした。
その年によっても多少違います。

大場:ジュニアユースの場合、下のユースから上がってくる子以外にも外から500名くらい受けますが、合格するのはほんの10名ほどです。

――12,3歳という「のびしろ」の多い時代に、どのようなことを主眼にされてトレーニングをされていますか?

ディフェンス、オフェンスでボールを奪い合う練習。球を操る技術だけでなく気持ちで負けない事が大切

判断を伴った技術の向上と、自立した行動ができるようにしています。たとえば、汚れたソックスを自分で洗うようにすることも大事なことです。

個人戦術の徹底、絶対負けたくない強い意志を育てるメンタル面、グループやチームの規律を守ること、などです。それと「川崎フロンターレ」では、ゴールへの強い執着心をもってプレーすることを小さいうちから叩き込んでいます。

――夏に力の差が出ると言われていますが、夏季休暇中はどのような練習をされますか?

高崎:特に普段とは変化しないですが、今年は時間があるので練習や試合、それ以外でも考える力や意見を言える、文章力を上げていけるようにしたいです。

大場:個人戦術の徹底、それがどれだけ試合で出来たか。特にジュニアユースは試合数が多いです。どれだけ競り勝っていたか試合の質を振り返ります。

――伸びる子の資質とは、どんなものでしょうか?

高崎:いつも100%で練習し、向上心をもって、考えて練習や試合をしている選手です。

大場:常に考えて行動を起こし、「絶対に上手くなるんだ」という強い意志がある子が伸びてきます。

12,3歳当時の思い出、W杯への思い

――監督も以前はサッカー選手でした。なぜ指導者のお仕事を選択されたのですか?監督として、どんなことを大切にされていますか?

もともと指導者になりたかったこともあり、また人に伝えることが楽しいと思っていたので。プロ選手を育成する立場なので、勉強(知識)や様々な人との交流で、人間性を磨くことが大切です。

どんなポジションであってもゴールを決めること。ゴールをねらわないポジションなど、このチームには無い。

選手を引退してから、指導者へ転向しました。選手のときはとにかく負けたくない気持ちが非常に強かった。だから怪我でのきついリハビリにも耐えることができました。今もその気持ちは変わりません。だから続けることが出来ます。

U-13の選抜試験は500名受験しても合格者は10名前後という熾烈な闘い。本人と保護者の面接もあり意気込みを問われる。

――ご自身が12,3歳の頃は、どんな習い事をされていましたか?それから体得したことはどんなことですか?

高崎:つくば出身ですが、もともとサッカーが根付いている地域ではなく筑波大ができたことで、うちの父親などを中心にサッカークラブを立ち上げることになった。
芝も豊富にあってボールを蹴れる環境に恵まれていました。習い事はピアノ、サッカー、野球などもしましたが、ほとんどサッカーしか記憶にありません。たくさん遊んでいたので、様々な動きや駆け引きなどを覚えました。

大場:地元の少年サッカーチームに入っていましたが、仲間と木登り、鬼ごっこ、野球、水泳など色々な遊びをしました。

――なるほど。お二人ともサッカーが一番お好きだったということですね。ご家族や周囲の皆さんには、どのような教育方針で育てられましたか?

高崎:基本的に、自分の判断に任されていましたが、「ちょっとは、勉強しろ!」と。もちろん勉強ができなければ遊べないこともありました。とにかく考えて行動すること。理由がなければダメと言われていた。いつも「なぜ?」「どうして?」「何のために?」と聞かれていました。

U-13のメンバーと談笑するU-12高﨑監督。「世界で通用するサッカーを仕込んでいる。彼らは10年後のスター選手です」

大場:とにかくサッカー馬鹿でしたが、何事も一生懸命に、人様に迷惑をかけないことをふまえて育ててもらいました。

――今回のW杯では日本のチームプレイのよさが際立っていました。監督にとってW杯とは何ですか?

高崎:すべてのサッカー選手の目標である大会。今の選手が育って、ぜひ闘ってほしい。

大場:昔は遠い存在でしたが、今はW杯に日本代表が出場するのが当たり前になってきた。しかし結果が出ていない。世界はもっとレベルが高い。だから若年層から甘えを許さないトレーニング環境を与えなければ、世界に勝つことはできません。

質が年々向上するジュニアユース

――ジュニアユースが立ちあがったのは98年で12年経ちます。チーム自体が成長したと思われますか?

大場:立ち上げ当初はマリノスやヴェルディに合格しなかった3番手くらいの子の寄せ集めでした。グラウンドもいい状態ではなかった。練習場所、メンバー選考などいろいろなことを積み重ねて試行錯誤しながら今があります。

監督へはお辞儀や声を掛けるだけでなく、握手して挨拶するのが習慣。W杯で見るシーンを日頃から身につけている。

――トレーニングのためにも「食」は大切と思いますが、子どもたちの家庭の協力は欠かせませんね?

12,3歳頃は成長期でお腹もすきます。食事に関しては、1食分600円くらいで業者に依頼してバイキングスタイルの食事ができます。そうなったのも最近のことです。保護者には栄養講習会を開いて講義をし、協力を得ています。練習後に帰宅してからご飯を食べるのが23時頃になってしまう子もいたので、こうした手法も取り入れるようにしましたが、概して好評です。

練習は夕方5時半頃から始まり、終わる頃は夜。ナイター設備もある施設だが、近隣在住者のスポーツへの理解も大きい。

――夜の給食は、家族にとってもありがたいことです。ところで今のU-12,13の選手が早くても8年後にW杯に出場するためには、どういうことが必要と思われますか?

高崎:日本はまだまだサッカーの歴史が欧米に比べて浅い国です。足元がうまい子はそれなりにいますが、執着心をもってゴールを決めて勝つんだ!という子が少ない気がします。
ゴールを狙うことを目的とした練習を積んでいますが、そこがクリアできない限り、W杯に出場するようなサッカーはできないままだと思います。サッカーは点を取るスポーツなので、何が何でもゴールのために体を張ることです。ポジションの役割分担はありつつ、全員でゴールを目指すのがサッカーなのですから。

大場:雷など身の危険がある場合を除いて、どんな状況であっても練習します。僕も選手時代は、朝・昼・晩と練習漬けで、そうしていないと体が動かなかった。
好きだから練習はしたいもの。 そういう気持ちがないとダメでしょうね。

――サッカーを通じて、子どもたちにどんなことを教えていかれたいですか。

高崎:サッカーが本当に好きでプロを目指すのなら、どこにいても同じ。自分の気持ちを目指すところに向けないといつまでも達成しない。ついにW杯に選手が4人出場しましたがそういう存在を目指し、超えようという子を増やしていきたいですね。自分の目標に対し、強い気持ちで向かっているなら目的をもって目標に達成できるはずです。

大場:今は一つでも多くチャレンジをさせたい。失敗しなければうまくならない。
負けたくないという気持ちがあれば、必ず力は伸びます。

編集後記

――ありがとうございました! 2010サッカー・W杯はニッポンを熱狂の渦に巻き込みました。あのひのき舞台に立てる選手が、今回取材したユースチームから輩出されるかもと思うとワクワクします!監督もきっとそんなワクワクした気持ちで、日々の指導にあたっておられるのではないでしょうか?力量のある子をさらにどれだけ伸ばすことができるか?は指導者の腕に掛かっている大仕事。サッカーを愛してやまない大場監督と高崎監督。お二人のキャラクターの違いも子どもたちを惹きつけるのでしょうね。4年後、8年後とサポーターとしてウオッチングを続けます!これからもご活躍をお祈りしてます。

取材・文/マザール あべみちこ

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