【シリーズ・この人に聞く!第2回】ピアニスト岡崎ゆみさんが語る「好きこそ物の上手なれ」

その美貌と軽妙なトークで音楽活動以外でもメディアにお目見えする機会の多い、岡崎ゆみさん。毎回、好評を博しているファミリーコンサートは、全国各地で開催して3年目。昨秋上梓した『クラシックを聴くと良い子が育つ』(アートデイズ)も丸善本店のベストセラーに選ばれるなど、その活躍ぶりは目覚ましいものです。ピアニストとして一層輝きを増す一方、小学2年生の男の子を育てるママの一面も。今回は、ピアニストとしてプロになるまで、子を思う母の気持ちについて語っていただきました。

岡崎 ゆみ(おかざき ゆみ)

東京藝術大学卒業、同大学院修了。1983年ハンガリー給費留学試験に最優秀で合格し、ハンガリー国立リスト音楽院に留学。1986年朝日新聞主催第6回「新人音楽コンクール」ピアノ部門に優勝。文部大臣賞を受賞。
帰国後、テレビ・ラジオ番組で司会を務め、演奏家としての評価に加えエレガントな雰囲気の出せる司会者としても各方面から注目を集める。現在は、未就学児向けのクラシックコンサートを精力的に行い、ソニー教育財団の評議員も務めるなど多方面で活躍。CDは「ワルツな夜に」「0才まえのコンサート」「子守歌」(Sony Records)をリリースしている。昨秋「クラシックを聴くと良い子が育つ」(アートデイズ)を刊行し好評を博す。

天性のセンスのよさでピアノは楽譜をみただけで弾けた

――ピアノを始めたキッカケは何だったのでしょう?

一番好きなことだったからです。お友達のお宅にピアノがあって、遊びに行くとずっと弾かせてもらっていました。遊びに行って2時間くらい集中して熱心に弾くものですから、周りも「ゆみちゃんは本当にピアノが好きなんだね」と段々と子どもの本気度がわかってきたようでした(笑)。

――ピアノが上手な子は器用だった印象がありますが、小さい頃はどんなお子さんでしたか?

結構ぼけーっとしている子で、自分の世界に浸っていたというか(笑)。小学2年生から6年生の期間、ピアノを続ける一方でNHKの児童合唱団に入って通っていました。当時50倍くらいの競争率だったらしいんですよ。そこで歌うこと、音楽の楽しさを改めて実感しましたね。学校の勉強は、12歳頃に塾に通い始めてから、霧が掛かっていた世界がどんどん晴れていった感じでスラスラと学力がついてきた。勉強したい意欲とか、時期って大切だなと思います。

――ピアニストを目指すなら遅いくらいと聞いていますが、6歳から始めてピアノを途中でやめたくなったことは?

そうですね。芸大に入ってからは正直ありましたが、小さい頃はなかったです。楽譜を見ただけで弾けましたし、3日で暗譜できる子だったので、楽しくて仕方なかったです。

――ピアニスト養成ではなく、ピアノを楽しむ子を育てるスクールを主宰されていましたね?

『岡崎コンサルパトワール』というスクールを数年前までやっていましたが、今は少しお休みしています。これから同様の展開ができればいいなと思います。学校を作った趣旨は、プロにはならなくてもいいけれど、良い先生に出会いたいという親御さんの要望が強かったんですね。実力と品位のある先生を募集したところ200人を越す応募がありました。書類審査で60人に絞り、面接でさらに5人に。その方々に先生として活躍していただきました。プロを育てるレッスンは厳しくて当然ですが、究極的にはミスの許されない競争の世界。皆がプロになることを望んでいるわけではないので、ピアノを奏でることが楽しくて仕方ないと感じてもらえるよう「生徒の喜びは自分の喜び」を講師の標語にしました。雰囲気づくりのできる指導者が必要だと思ったのです。

小さな頃から良い音楽に触れると心のバランスにも良い影響が

――ピアノは私たちが子ども時代よりも比較的どの家庭でも手に入れやすくなったと思いますが、それに伴ってピアノを弾く子が増えているかといえばそうでもありませんね。現代の子どもたちが抱えている問題はどんなことだと感じますか?

例えばゲームは前頭葉だけが興奮状態に陥る遊びですが、楽器を弾くというのは、脳の広い帯域を使う全脳運動です。それは動物に触れるのと同じように心を癒したり美しいものを構築する能力です。楽器演奏では自分との闘いはあっても他人との競争、勝負事はない。音楽で感情を育てるような教育にしたいですね。私が見てきたさまざまな国の中で、共産圏の東欧がとてもおもしろい試みをしていました。「アフタヌーンスクール」と呼ばれ、昼過ぎから学校内で習い事をさせ、すべて無料なのです。ピアノを弾く子、絵を習う子、体操をする子、色々な授業があったようです。貧しい国でさえそうやって子どもたちの能力を伸ばそうと予算を取っている。この国は、少子化といって格差社会も進んでいますが、子どもたちの力を育てる教育カリキュラムは未だに国としては発展途上ではないでしょうか。

――なるほど。子どもの能力を伸ばす環境が用意されているのは幸せですね。では、著書「クラシックを聴くと良い子に育つ」で、一番強調したい点は何ですか?

小さな頃から音楽を楽しんできた人は人間的な豊かさをもてると思います。楽器をたしなむ人は罪を犯さないと信じています。例えば、「音痴」って生まれつきのものではないんです。耳でたくさん心地よい音を感じることは、とても大切なこと。心地よい音に触れる機会が少ないと、心のバランスも崩れてしまいます。赤ちゃんの頃から、心地よい音に触れることがどれだけ良い影響があるかを書いています。大人になってからでもクラシックを取り入れることはとても心を豊かにすることです。

――これからピアニストとしてどんなことを目指していますか?

学術的な手法ではなく、自分らしく「岡崎ゆみ」らしさが表れる演奏をしたいですね。

――著書「クラシックを聴くと良い子に育つ」で、一番強調したい点は何ですか?

これまで1600通のアンケートをいただき、どの方からも感謝されております。無料なので倍率も10倍強だと聞いております。今年も9月2日を皮切りに14公演全国各地で行います。コンサートに来たことをキッカケに「ピアノを習ってみたい」というお子さんが増えているようなのでうれしいですね。

賛美の言葉をたくさん使って褒めて自身をもたせてあげたい

――親だと結構ガミガミと怒る存在になってしまうように思います。ピアノを上手に指導するコツはありますか?

私のスクールでは「聴きます、弾きます、誉めます」をキャッチフレーズに指導をしていました。先生は良い音で弾く。そして生徒に弾かせてあげることが大切です。自信をもたせることで楽しいと感じてもらえるように指導するのです。決してネガティブな言葉で生徒が傷つくようなことは言わないことです。

ダンディな旦那さんと、ピアノ大好きな息子さんに囲まれて

――親御さんからはどんな質問を受けますか?

「練習しないのですがどうすればいいですか?」という問いが多いですね。プロになるわけでないのでしたら、あまり厳しく言うことはないと思いますが、一日一回位は「ピアノの前に座ってみようか」と親御さんがうまく導いてあげてほしいですね。でも無理強いはしないでください。

――無理強いは、子どもを萎縮させてしまうのでしょうね。では、小さいお子さんを持つ親御さんに対する要望は?

いっぱい褒めてあげてください。それこそ形容詞をたくさんつけて大げさなくらいに、きれいね、上手ね、素晴らしいね、素敵だね、、、そういうふうに褒めることでお子さんはピアノが好きな気持ちが高まると思います。

――最後になりますが、お母さんとしての岡崎さんの願いとは?

音楽は大好きで、好きな曲は即興で弾いています。そんな息子も最近、作曲、音で創作するのが好きになってきました。将来はB'Zのような時代の若者に元気を与えるような音楽創造ができたら嬉しいですね。

取材・文/マザール あべみちこ

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