前回の話
女性から聞いた2つの家族の話
女性は津波で犠牲になった近所の方々の話をしてくれた。
その方は車椅子なしでは移動することができなかったという。しかし、近くで津波から唯一避難できる日和山の山頂への道は階段だった。
当然、山へ逃げることはできない。そのため、一緒にいた家族に自分をおいて逃げるように言ったという。家族の方は断腸の思いでその方を残して避難したそうである。
また、別の一組の夫婦はご主人が足が不自由で思うように動くことができなかったという。地震発生時、奥さんも一緒にいたのだが、彼女は避難をしないと言ってご主人のそばに残ったそうである。
その後、津波は夫婦を襲い、二人とも命を落とされたという。
女性にご夫婦の年齢を聞いてみると「恐らく50代くらいではないかしら。そんなにお年を召した方ではありませんでした」とのことであった。
2つの家族の話をしてくれた後、女性は日和山の方を見ながら「もし、車椅子で避難することのできる緩やかなスロープがあったならば、逃げることができたのに」と、口惜しそうに言った。
日和山へ
女性と別れた後、しばらくして日和山に登った。
山頂への道は最初、車椅子を押しづらい未舗装の坂であった。所々に大きな段差もある(※道は複数あり、階段の場所もあるとのこと)
そして、その坂が終わると次にけっこう急な階段が山の上まで続いていた。どう考えても車椅子では登ることができない道であった。
山の上に立つと穏やかな石巻湾と旧北上川が見えた。そして、海辺にはかさ上げされた更地が広がっている。
その光景を目にすると再び、大切な家族を残して避難せざるを得なかった方や津波の犠牲になったご夫婦の話を思い出した。亡くなられた方たちはどのような思いで最期の時をむかえたのだろうか。様々なことを考えずにはいられなかった。
もし、5年前にこの山頂まで続く緩やかなスロープがあれば助かっていたかもしれないのではないか。いや、山頂でなくてもせめて中腹まででもいいから車椅子で避難できる道があれば助かったのではないか。そのように思う。
話をしてくれた女性は、近所の方と一緒に車椅子でも避難できる道を日和山に造ってほしいと市にお願いしているそうである。
しかし、その反応はよくないという。
女性に聞いたような話は二度と起こってほしくない。かさ上げ工事と同様に高台への避難路も整備してほしいと思う。