福島第一原発、いまここにあるリスク(2016年1月)

廃炉に向けての作業を進捗させる上では、建屋内部に滞留する汚染水を少しずつ減らしていきたい。建屋内の滞留水水位を下げると、地下水位もその分下げていかなければ、建屋への流入量が増えて汚染水を減らすことができない。そのため、サブドレンの稼働以降、地下水の水位も減少している。山側サブドレンでは、9月から1月までの期間に約2メートル水位を低下させている。

別のページ(21ページ)のグラフで見ても、サブドレン稼働後は徐々に水位を低下させていることが分かる。

福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(平成27年8月版)関連項目の取り組み状況について(21ページ)

しかしグラフの9月3日~16日にかけてが顕著だが、降雨量によってサブドレン水位は大きく上下する傾向がある。10月以降はそれほど大きな降水がなかったため、段階的にサブドレン水位の低下がうまく行っていると考えることも出来る。

サブドレン水位が上昇すれば建屋内に流入する地下水の量が増えるため、建屋内水位も上昇する。建屋内水位が上昇した際に、サブドレンの水位が急激に低下するようなことが起これば、建屋内の高濃度汚染水が地下水に逆流する事態を引き起こしかねない。地下水脈を通して地下が広い範囲で汚染されてしまう懸念もある。その対策として、地下水位を人為的に高めるための注水井31孔の準備も完了しているという。(下の地図の茶色のスポット)

福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(平成27年8月版)関連項目の取り組み状況について(27ページ)

また現在、建屋内の滞留水の主な移送ラインは、タービン建屋から処理施設がある高温焼却炉建屋・プロセス主建屋を結ぶものがメインで、原子炉建屋や廃棄物処理建屋などの滞留水はタービン建屋に自然流下する前提で移送が実施されている。

建屋内のさまざまな施設間や建屋間を結ぶ移送ラインの新設も、建屋水位をきめ細かくコントロールするための措置だと考えていいだろう。

福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(平成27年8月版)関連項目の取り組み状況について(22ページ)

【懸念される状況】注水井の設置や建屋内の滞留水移送系統の改善工事は、地下水位と建屋内滞留水の水位逆転を予防することに、東京電力が力を注いでいることを示している。しかし問題は、急激な水位変動があった際にこれらの対策の応答性がどれくらいあるかということだ。

常識的に考えて、事故後5年近くに渡って建屋内の水位より高い状況が続いてきた地下水の水位が急激に低下することは考えにくい。しかし、問題はより海に近い地下水ドレンの水位が降雨などで急上昇した場合だ。

地下水ドレン汲み上げ水の移送先は、海洋排出を前提としたメインストリームの他に、タービン建屋への移送路と、高台にある35m盤タンクへの移送路という2つのバイパスが「のがし弁」的に設置されている。しかし、35m盤タンクへの移送ラインは集水タンクから分岐している。このラインを使うとなると、メインストリームの1つの工程である集水タンクを、地下水ドレン汲み上げ水の汚染された水で汚してしまうことなる。その後のサブドレンの運用そのものに支障をきたすかもしれない。このことを嫌って、タービン建屋に大量の地下水が移送された結果、地下水位と建屋内滞留水の水位逆転が発生しないとは言い切れない。

大規模な環境汚染につながりかねない地下水位と建屋内滞留水の水位逆転を防ぐ手立ては、一重に東京電力のオペレーションに委ねられているのである。

タンク総容量の増加抑止

2014年4月に始まった地下水バイパスは、2016年1月26日までに累計162,870トンの地下水を海洋排水。また、2015年9月3日に開始されたサブドレンの運用は2016年1月24日までに累計で50,768トンを排出した。その結果、建屋地下に流入する地下水は1日あたり150トンほどとの評価が示されている。

建屋内に流入した水は、汚染水であれ地下水であれ、あるいは雨水であれ、汚染水処理のプロセスに回すことになる。建屋が起点となって処理された水は、原子炉の冷却に使われる以外のほぼ全量がタンクで貯蔵されるため、タンクの総容量抑制のためには、建屋に流れこむ水を減らさなければならない。

その有効な手段として作業が進められているのがフェーシング。敷地内の地表をアスファルトやセメントなどで被覆することで、雨水の地下浸透抑制を狙っている。

福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(平成27年8月版)関連項目の取り組み状況について(29ページ)

フェーシングには地下水を減らすだけでなく、地表からの放射線をカットすることで、作業環境の線量低減の効果もある。2015年11月時点での進捗率は93%だという。

フェーシングと関連して、事故原発構内の除染状況についての報告を引用する。

福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(平成27年8月版)関連項目の取り組み状況について(48ページ)

本来線量測定の方法は「胸元の高さ」に統一すべきだが、除染の効果を確認するため、建屋や汚染水タンクからの直接放射の影響を受ける場所では足元で測定したとのこと。

福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(平成27年8月版)関連項目の取り組み状況について(49ページ)

除染後の線量も十分に低いとはいえないものの、フェーシング・除染とも平成27年度いっぱいで完了予定とのこと。この進捗は評価できるだろう。作業環境の線量低減に向けてさらなる取り組みに期待したい。

雑固体廃棄物焼却施設の運用

こちらは平成27年11月の発表内容とほぼ同じ。変更されたのは、使用前検査が若干ずれこんだため、実際に汚染物を焼却するホット試験の日程もその分先送りされ点だ。3月から運用を開始する予定は11月時点から変更されていない。

敷地境界実効線量1mSv/年未満達成に向けた取り組み

「特定原子力施設への指定に際し東京電力株式会社福島第一原子力発電所に対して求める措置を講ずべき事項について」において,敷地境界線量を1mSv/年未満とすることが求められている。

引用元:福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(平成27年8月版)関連項目の取り組み状況について(36ページ)

事故原発構内の境界評価点(bp)のうち、この基準値をオーバーしているbp7とbp66についての対策を述べている。

福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(平成27年8月版)関連項目の取り組み状況について(37ページ)

真ん中の棒グラフをよくみると、縦棒の下、0.4mSv/年を下回る「気体・液体・構内散水の線量」はほぼ同一(ブルーの部分)だ。棒グラフのオレンジ色は汚染水タンクに起因する。bp7とbp66ともにオレンジの部分が大きな割合を占めているので、関連するタンクの汚染水を多核種除去設備等で処理することで、敷地境界実効線量の1mSv/年未満達成は可能とした。

来るべき地震や津波への対応

福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(平成27年8月版)関連項目の取り組み状況について(41ページ)