事後対策と教材としての段ボールの可能性
今野さんの会社では震災後、避難所のパーテーションやベッド、仮設小学校のロッカーなどの什器を強化段ボールで作って供給してきた。プライバシーを守るための壁、足腰が弱っている方が少しでも楽に起居するためのベッド、そして一刻も早い再開が待ち望まれる学校など社会施設の復旧に、今野さんたちの会社が手がけてきた3層構造の強化段ボールは打ってつけのものだった。強い、軽い、エコである、形状加工の自由度が高い。木材や金属など他の素材と比較して、段ボール、とりわけ強化段ボールという素材には圧倒的なアドバンテージがある。それに加えて、今野さんの会社にはレーザー加工や彩色の技術まである。
その利用法の最たるものの1つが棺桶だ、と今野さんと最初に会った時に話した記憶があった。が、今野さんは別の言葉、もっと包括的な言葉で同じことを表現した。おそらく棺桶という言葉の持つ多様なイメージによって思わぬ方向に引っ張られることを嫌っていたのだろう。(そんなところにも今野さんの考え方のフレキシビリティが現れていると思う)
今野さんはこう言った。「事後対策の必要性を知ってもらうことが大切なんです」と。
事前ではなく、事後。ことが起きてしまった後のことを予め考えて対策を取っておくということだ。
にもかかわらず人間には、あってほしくないことを除外して考えたがる傾向がある。本当に大変な事態に立ち至った時、甘い見積もりで考えもしていなかったこと、たとえば棺桶の問題もそうだが、棺桶不足への対応に人や物資が割かれることで、援助しなければならない人への対応が薄くなってしまいかねない。そんな状況を生じさせないためにも、「事後」に対する備えが重要だと今野さんは言う。
誰も亡くなることなく、誰1人重傷を負うことなく、避難所が十全に機能することなどありえない。しかし、安全を前提とした備えはなされていても、事前に事後のことに備える対処は行なわれていない。
強化段ボールの加工技術を防災に活かしたい
防災という考え方には限界がある、とまでは言わなかったが、次に今野さんが強調した事業がこれ。「型抜きされたパーツを重ねていくだけでカンタンにできる段ボールジオラマ防災授業」だ。
段ボールの曲線加工技術を使って、その土地の地形を等高線に沿った段ボールでジオラマに製作しつつ、万が一の時にどこにどう避難するかを「自分たちで考える」ための教材づくりだ。
今野さん:こども達にはまず、野外ワークを通じて危険箇所や地形について知ってもらいます。それを、立体的なジオラマ作りを通じて考えてもらう。ふだん歩いているだけでは認識できない高低差を、等高線ジオラマを作ることで体感的に理解できる。さらに地形による危険も体感できるのです。
ジオラマづくりは、段ボールのプレートを重ねていくだけだから、それほど難しい作業ではなさそうだ。ただ、どのパーツのどこに次のパーツを重ねていくかを分かりやすくガイドするという点で、今野さんの会社の作業は大変なる。しかし、高度データは国土地理院のデータを使うことができるので、日本中のそれぞれの地域に即した立体防災地図を作ることが可能だ。
避難経路や危険地域をピックアップした立体地図を子供たちが作ったら、それを材料にして、もっと多くの人たちと話し合ったりすることが可能になる。ハザードマップや過去の被災情報を重ね合わせて学校内で話し合ってもいいし、地元の人たちとの恊働の可能性も広がるだろう。
そんなことができるのも、今野梱包にダンボルギーニを具現化できるほどの技術とノウハウ、そして人々のスピリットがあるからだ。
飛っきりハイテンションで、ダンボルギーニを作り上げてしまう今野さんたちは、二重・三重の意味で真面目なのである。
年末年始にネット上で話題騒然となったダンボルギーニ(だけ)を見に来てくれるだけでもいい。でも、なぜダンボルギーニを作ったの?という疑問の先に、今野さんたちのソウルがあることを覚えておいてほしい。
と、つらつらと余計なことまで書き連ねてきましたが、まずは是非、ダンボルギーニの実物を見に来て下さい。そこから広がるヒューマンなスピリットは、きっとご覧いただいた多くの人に伝わっていくはずだから。(蛇足ながら、12月23日にランボルギーニとダンボルギーニのご対面を果たすために奔走したランボルギーニの社員さんも、今野さんたちのスピリットに揺さぶられたからこそ、数千万円の超高級スポーツカーを女川に持ち込むことができたのだという)