2015年9月24日、1号機~4号機の海側で全長780mに及ぶ長大な壁「海側遮水壁」が完全に閉合した。
遮水壁の工事は2012年5月から始まり、約10mを残して出来上がっていたが、海側の地下水位が上がらないように、敢えて完全には閉ざしていなかったらしい。閉ざされていなかった部分がどのようになっていたか、下の動画から見て取れる。
白く並んだ柱が遮水壁の鋼管矢板。隙間の向こう、俵のようなものが積み重ねられているのが原発の敷地だ。拡大された右の映像で見ると、俵のようなものは石を針金のネットに詰め込んだ「ジャカゴ」と呼ばれるものだと分かる。
ジャカゴは水流などで石が流されないようにネットに入れたものだから、もちろん間はスカスカだ。陸側では水ガラスによる止水も行われていたとはいうものの、あえて鋼管矢板を閉じないでいたのだから、ここから地下水や雨水などがだだ漏れしていたのは明らか。今となっては詮なき話かもしれないが……。
鉄パイプのような鋼管矢板で水が堰き止められるのか心配される方もいるだろう。鋼管矢板の継ぎ目は下図の右下のようになっていて、しっかり止水されるらしい。しかも鋼管は地底約30mの下部透水層というところまで差し込まれるので、1~4号機の海側はダムのように堰き止められることになる。
しかし、堰き止めてしまったら山側からの地下水や雨水が溜まって溢れてしまうかもしれない。そこで力を発揮するのが最近うわさの「サブドレン・地下水ドレン」だ。サブドレンは建屋周辺の地下水を汲み上げる井戸だが、地下水ドレンは海側遮水壁の内側に設置される井戸で、まさしくダムのような遮水壁の内側に溜まった水を汲み上げる。東京電力の「私が、お応えします。」には次のように説明されている。
Q. 「サブドレン」「地下水ドレン」はなぜ必要なの?
A. 「サブドレン」により、建物内へ流入する地下水を減らすことで、原子炉の燃料に触れることで発生する、高濃度の汚染水を大幅に減らすことができます。また「海側遮水壁」でせき止められた地下水を「地下水ドレン」でくみ上げることにより、建屋より海側の地下水が海側遮水壁を越えて港湾内へ流れ出ないよう、しっかりと管理することができます。
要するに、2012年から建設を始めた海側遮水壁を10mほど開けておいたところから、建屋より海側の地下水は港湾内へと流れ出ていたことをここでも追認しているわけだ。
また、海側遮水壁の閉合とサブドレン・地下水ドレン計画が一体のものであることもよく分かる。地下水ドレンを運用することになったから遮水壁は閉じられたのだ。
「建屋より海側の地下水」がどんな地下水なのかは、9月24日付で発表された「タービン建屋東側における地下水及び海水中の放射性物質濃度の状況等について」を見れば一目瞭然だ。資料中ほどに建屋より海側の地下水観測孔で測定された放射能がグラフで表示されている。グラフの右には赤い文字で「告示濃度」(省庁が示している濃度限度)が記されているが、その数値を上回る検査データがてんこ盛りだ。しかもグラフの縦軸は対数目盛だから、その汚染度の凄まじさが読み取れる。
海側遮水壁が堰き止める「建屋よりも海側の地下水」には、このように極めて汚染度の高い水も混入することになるだろう。全体としてどれくらいの濃度になるかは、実際に水が溜まってみなければ分からないかもしれないが、サブドレン計画の浄化設備では対応しきれないほどの汚染水が汲み上げられることになる恐れも大きい。
東京電力が地下水ドレン水の移送ラインとして、原発構内高台のタンクエリアに直接バイパスさせるラインを追加設置(いずれALPSなどより高性能な処理設備で処理することになるのだろう)したのは、そんな事態が発生した時にサブドレン関連の他の施設の汚染を防ぐために他ならない。
つまり、海側遮水壁を完全に閉合すると、非常に汚れた地下水が汲み上げられるおそれがあると東京電力は考えているわけだ。
東京電力や規制委員会の頭のいい人達の考えることはよく分からない。どうせ高濃度汚染水を蓄えているタンクにバイパスするのなら、なぜ何年も前に海側遮水壁の98.9%が完成した時に壁を完全に閉ざしてダムを完成させなかったのか。地下水ドレンでじゃんじゃん汚染地下水を汲み上げてALPSに回せばよかったのではないか。しかし、それができない理由があったということなのだろう。
汚染水処理に関しては「2014年に完了予定」と正式に発表していた(現実には大幅にずれ込んでいるが)。ALPSで処理した水はトリチウム濃度が下がらないので改めてタンクに貯めなければならないが、タンクを設置する場所がない。サブドレンと一緒に運用する地下水ドレンでは、基準を満たしさえすれば処理後の水を海に流せる(タンクに貯める必要がない)。おそらくそんなところだろう。
しかし、だからといって高いお鮮度の地下水が観測されているエリアに未閉合部分を残し、ご丁寧にもジャカゴまで設置して水をダダ漏れさせていいという話にはならない。東京電力からこの件について、分かりやすい説明は聞いた覚えはない。
「海側遮水壁を完全に閉じてしまったら、汚染水処理がパンクするんです」とか「トリチウムが残っていても海に流すしか方法がないんです」とちゃんと説明してくれていたら、きっと日本中の人たちも原発が置かれている苦境について、もっと理解できたのではないか。涙をのんでサブドレン・地下水ドレン計画を容認した福島の漁業関係者と同様に、福島の復活のためにともっと切実な国民的課題として事故原発のことを考えるようになったのではないか。
どうにも、事故原発に対する国民的理解が進むことが困る、別の事情でもあるのではないかと勘ぐらざるを得ない。
汚染された地下水が貯められるダムの完成
とはいえ、海側遮水壁が閉合されたという現実をしっかりとらえなければならない。繰り返しになるが、この遮水壁は極めて汚染度が高い観測ポイントを複数抱える場所に、大量の地下水を湛える地下のダムのようなものだ。これまでは地下水観測孔という単体の穴の底でのみ計測されていた汚染が、地下に溜まった水とともに広範に移動したり、これまで見られなかった濃度の変動が起きる可能性もある。
サブドレン・地下水ドレンによる処理と排水が、海を汚さないとの方針通りに実施されるように見守っていきたい。