福島第一【K排水路】雨が降れば汚染雨水が太平洋へ流れ出す

「またしても」という言葉が虚しく感じられる。虚しく感じられるほど「またしても」が繰り返されている。

追記:さらに9月9日にも堰を越えて汚染雨水が海へ

9月7日の漏洩に関する記事だが、その2日後にも同じくK排水路排水口付近の堰を越えて汚染した雨水と考えられるものが海に流出している。しかも、東京電力の情報公開の姿勢はあまりに貧弱だった。

台風18号から変わった熱帯低気圧と台風17号による豪雨で、さらなる海洋汚染が心配される。

話を9月7日時点に戻します

東京電力は、平成27年9月7日付の「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」の片隅で、構内のK排水路排水口(海直前に設置されている堰)から、1時間11分にわたって雨水の漏洩があったことを伝えた。漏洩した雨水の放射能は極めて高い可能性があるが、漏洩した雨水を直接分析した結果は発表されていない。

※K排水路の排水については、同排水路内に堰を設けて、移送ポンプを設置し港湾内に繋がるC排水路へ移送しているが、9月7日、K排水路に設置したカメラ映像を確認したところ、降雨の影響により、午前2時55分から午前4時6分の間で雨水が堰を乗り越え、外洋側へ一部排水されていることを確認。

その後は、K排水路内の雨水は全てC排水路に移送しており、外洋への排水はなし。

引用元:福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成27年9月7日

8月中旬からの「K排水路排水口放射能分析結果」を以下に引用する。ピンクで囲んだデータは、東電が「降雨による表層土の流入のため上昇したものと考えられる」とした濃度上昇を、赤囲みは漏洩が発生した際のデータを示す。

「福島第一原子力発電所 K排水路排水口放射能分析結果|東京電力 平成27年9月7日」より

堰から溢れて太平洋に雨水が流れ出たのは降雨があった日。溢れるほどの降雨があった日には、東京電力の言う「降雨による表層土の流入のため上昇したものと考えられる」状況が発生していたものと考えるのが自然だろう。

汚染水を外の環境に漏出しないことを考えるのであれば、実際に流れ出している最中に雨水を採取して分析を行ってしかるべきところだが、現在まで分析結果は発表されていない。いつもタイムラグがある。

繰り返され続ける海洋への漏洩

汚染された可能性が極めて高い雨水がK排水路から太平洋に直接流れ出したのは、東京電力の発表によるとこの1カ月間だけで3回発生している。

その間に、サブドレン計画――建屋近くの地下水を汲み上げて処理した後に海洋に放出する計画――の実施が事実上決定した。今年の春、K排水路の問題が発生したことを契機に計画実施に反対してきた地元の漁業関係者が、地域再生のためにと涙を呑んで容認に転じたからだ。放射性物質が海に、そして原発敷地外側の環境に流出することは、どんな形であっても許されないのが地元の心情だ。それでも容認せざるを得なかった地元の人たちの気持ちを東京電力はどう考えているのだろうか。

K排水路から海洋への漏洩に関する記事のリンクを以下に紹介する。記事の数は東京電力が繰り返してきた「またしても」の多さを示すものでもある。

K排水路の問題が注目を集めるようになったのは、わずか半年余りの出来事だ。この間の流れをざっくりまとめよう。

▼2月24日の東電発表。K排水路問題でサブドレン計画が頓挫へ
事の発端は2月24日の東電発表。K排水路に汚染水が流れていて、その出どころが2号機に隣接する建屋の屋上だとされた。しかし東京電力はK排水路の高濃度汚染水については10カ月近くも発表せずにいた。これに地元が反発して、開始容認にほぼこぎつけていたサブドレン計画が頓挫する。

▼太平洋には流さないが港湾内に流すという「対策」
東京電力はK排水路内などにセシウムを吸着するゼオライトなどを設置。またK排水路から直接海に水が流れないように排水口に堰を設け、堰の内側からポンプで汲水。すぐ近くにあるC排水路に合流させて、港湾内(処理にフィードバックするのではなく、海に接続している原発施設の港湾内だ)に放出するとした。このポンプラインは4月17日に稼働した。

▼4月21日、ポンプ全停止。汚染水が海洋へ流出
ポンプ可動からわずか5日後、K排水路の堰から汚染水を汲み上げるポンプが全停止して汚染水が堰を越えて海に流れ出す。原因はポンプを動かす発電機の故障によるとの判断が示された。

看過することができないポイントが2つある。
ひとつは発電機が1系統しか備えられていなかったことだ。発電機やポンプが故障したら海洋への漏出が起きても仕方がないという対応とも受け取れる。
もうひとつはポンプ能力。ポンプは1時間の雨量14ミリでキャパを超えてしまうということだ。時間雨量14ミリはたしか大雨ではあるが、あり得ない雨量ではない。しかもこの時の雨量を調べると、原発から10キロメートルしか離れていない浪江のアメダスデータでは、わずか2ミリに過ぎなかった。

▼5月29日、高濃度汚染水を移送中の耐圧ホースが破損。汚染水がK排水路へ
原発構内高台にある高濃度汚染水のタンクから、処理のためにタービン建屋に汚染水を移送していた仮設の配管が破損し、高濃度汚染水が漏洩。配管が設置されていた側溝はK排水路につながっていた。

東京電力は漏洩箇所周辺の側溝を土嚢で閉塞したり、放射性物質の吸着を目論んでゼオライト土嚢を設置したほか、K排水路排水口付近では高性能のバキュームカーで汚染水の除去を行った。

しかし、非常に高い濃度の汚染のすべてが除去できたかどうかは不明。

▼この出来事を機に、K排水路排水口の放射能分析が公表されることになる
放射性物質の濃度は日によって大きな変動がある。高い値を示した際、東京電力の発表に「降雨による表層土の流入のため上昇したものと考えられる」との注釈が付けられるのは、あるいは5月29日の高濃度汚染水漏洩事故で除去しきれなかったものが、雨水と混ざって排水口付近まで流れ下っているということなのかもしれない。

繰り返しを止めなければ汚染拡大も止まらない

見てきたとおり、非常に残念なことが東京電力の事故原発構内では繰り返されている。雨が降れば放射能が上がると東京電力は言う。しかし、大雨で堰の水(高い濃度に汚染されている可能性が高い)が海に溢れ出ることが繰り返されているわけだ。とてもまともな対応をとっているとは思えない。

雨が降れば汚染度が上がる。雨が降れば水が溢れる。溢れた水は汚染されている可能性が極めて高い――。誰が考えてもわかることだ。そんな当たり前の対応すらできないほど、あるいは当たり前のことを言い出す人がいても、そんな主張すら通りにくいほど、組織の硬直化が進んでいるということなか。

私たちにできることは、東京電力の担当者に良識ある判断と行動をとってくれる勇気ある人が現れるのを祈るしかないのだろうか。