ちょっと残念なお米の話

とある中部地方の農家で稲刈り体験をした時のこと。子供たちと鎌を使ってちょちょっと稲刈り体験していると、「そんなんじゃ日が暮れちまうなあ」と田んぼを提供してくださった農家の方が大型コンバインを運転して登場。あっという間に刈り取って、ボディ上部のノズルのようなマシンから、脱穀された籾米がザザーと選別されて出てきた。機械化の凄まじさにおおーと声をあげていたら、「まだこれからだよ」と乾燥機がある倉庫にみんなを案内してくれた。

乾燥機とはその名の通りお米を乾燥する機械。昔は田んぼで天日干ししていたものだが、機械化が進んだ農家では、収穫したお米をそのまま乾燥機で乾燥させて、刈ったその日に商品としてのお米が完成するというわけ。ただし、この乾燥機はずいぶん高価なものだそうで、農家の方は乾燥機を所有していることが自慢げだった。

見てしまった米袋の謎

さて、話の本題はここからで、乾燥機のある倉庫で驚いたことがあったのだ。それは乾燥させ、籾摺りした玄米をクラフト紙で出来た30キロ詰のお米の袋に詰めていくのだが、袋に印刷された生産地名がおかしい。

「岩手」「宮城」「山形」…。東北地方の県の名前が印刷された袋ばかりで、本当の生産地である県名の袋がないのだ。

「???」なんだかイヤな予感がした。せっかく稲刈り体験に参加させてもらったのに、何なのだろうかこのイヤな気持ち。意を決して、乾燥機だけ借りに来ていた近所の農家の人にちょっと尋ねてみた。「稲刈りご苦労様でした。ちょっと聞いてもいいですか。どうしてお米の袋には宮城産って印刷されているんですか?」

「あ、ああ、これ、自宅用だから、この米、ウチで食べる分だから問題ないんだ」

ご近所の農家の男性は米袋を4つばかし軽トラに積みこむと、そそくさと去っていった。

まあ確かに、売れば産地偽装だが、自分ちで食べるのなら問題ないだろう。しかし、乾燥機が置かれた倉庫に積み上げられていた空きの米袋、自分から見える分はすべて他県産の袋だったのだ。やっぱり変じゃなかろうか。

新潟県産の「袋」は1枚500円!

数年後、福島の農家の人に話したら、「まあそんなもんだっぺな」と言われて驚いた。

「いろんな人がいるからね。公然の秘密みたいなもんだけど、有名な産地の米袋がこっそり出回ってもいるんだよ。新潟の魚沼産って印刷された袋は1枚500円だって」

もちろん袋だけ。それが500円で出回っている!

「お米屋さんで精米するでしょ。そん時に、ふつうなら一々米袋の紐を解いてなんてやらないの。刃物で袋を裂いて精米機に入れるのね。紐なんて解いていたら仕事になんないから。それがね、袋が高く売れるってことで、あっちの方では袋がキズ物になんないように気をつけて作業してさ、それで袋は袋で売ってるんだって」

自分で見てきた話じゃないから確実だとはいえないが、教えてくれた農家の方はとても信頼できる人。まず間違いない事実なのだろう。

別の農家の人はこんなことも言っていた。

「本当はね、全部直販で売りたいんですよ。でも大規模にやってるとJAさんにも出さなきゃならないでしょ。そうすっとね、自分ところで作った米も、よその人のところで作った米も一緒くたにされてしまうんだな。安全でおいしい自慢のお米なのに、言っちゃ悪いけど手を抜いて、まあ安全性でもね、国の基準を超えなければいいやっていう人のと混ぜられるから、やっぱり買い手がつかないらしい。信用がなくなっちゃうんだね。それで結局加工用米、お煎餅とかの材料にするのかね、加工用米として関西の方で引き取ってもらったって。がっかりしちゃうんだよね」

お米は混ぜられる。JAでもおコメ屋さんでもスーパーでも。混ぜられてしまえば、どこの産地なのか素人にはなかなか分からない。だからお米の偽装は後を絶たないのだろう。大きく取り上げられた事件でも、中国産のお米が国産として大手スーパーで売られていたとか、加工用米や事故米が産地偽装されて売られていたりとか…。

偽装はされていなくても、複数の農家の人が作った品質が異なる米がブレンドされている可能性は大いにある。

残念じゃないお米を手に入れるには

お米をめぐっては残念な話が少なくない。三代遡れば父方が米屋で母方は農家だった自分としても悲しいし悔しい。袋とかブレンドとかの問題は、おいしくて安全なお米を作っているまっとうな農家さんを馬鹿にしていると思う。

しかし、残念なお米を掴まずにすむ方法はある。それは農家から直接お米を買うことだ。おいしさや価格ももちろんだが、できれば「この人なら大丈夫だ」と思える農家さんから直接購入すれば、産地偽装や手を抜いて作られたお米を買わされる心配はない。

実にシンプル。農家さんによっては、時期を指定して精米して送ってもらうこともできるから、おいしいお米をいつでも食べられる。

食は生活の基本。とくにお米は日本の食べ物の基本だから、信頼できる農家から直接購入したいもの。毎回取り寄せていると、農家さんへの信頼も増すし、農業という仕事への理解も進むだろう。お金で品物を買うという関係を超えたものも手に入るかもしれない。

ぜひ、お米は農家さんから。