女子マネがドラッカーなら選手はリスク管理【守備編(1)】

甲子園選抜大会開幕!

いよいよ一昨日の3月21日より、選抜高等学校野球大会が始まりました。春は選抜から・・・って毎年言ってる日本人は、どれだけいるのでしょうか。かなり?

ぽたるページでも野球の話題が増えてきました。高校野球に続いてプロ野球も開幕しますから、しばらくは野球の話題は花盛りになりそうです。

そこで野球観戦をより楽しむために、今までより、ちょっとだけ違った見かたをすることができる話題を提供させて頂きます。

最初にお断りをしておきます。これから書くこととドラッカーは関係ありません。女子マネージャーは忙しくてドラッカーを読む暇はありません。しかも高校生だし。

ただお伝えしたいのは、選手はさまざまな場面で、リスク管理を行っていて、強いチームほど、そうした判断や動きにミスが少ないということです。また、このような選手のリスク管理上の正しい判断や動きが、時にはスタンドやテレビで観戦するファンからすると「何やってんだよ~」と批判されてしまうことがままあります。それでは選手も報われません。ですから選手が行っている判断の基盤となるリスク管理を紹介していきたいと思います。プロ野球も、大学野球も、高校野球も、中学野球も、少年野球も基本は一緒です。

「何やってんだよ~」ではなく、「そうだよね、そうそう」と理解できた時、ちょっと通な野球ファンになれます。お酒のうんちく語るのと同じかもしれませんが。

今治西(愛媛)VS桐蔭(和歌山)8回表裏の好守備

甲子園選抜、3月22日の第一試合の8回の攻防に良い守備を見ました。下は7回終了時点のスコアです。

今治西 204 000 1 | 7
桐 蔭  020 010 1 | 4

8回の表2死から、今治西の9番吉原君の打球は、痛烈な三塁線のゴロ。抜ければ確実に二塁打でしたが、桐蔭の三塁手橋中君がダイビングキャッチ。一塁へ送球しチェンジとなります。

ダイビングキャッチこそ三塁手の醍醐味。見せ場の一つです。この三塁線の強い打球にダイビングキャッチができたのは、野手の身体能力(敏捷性、瞬発力)も当然必要なのですが、それ以上にポジショニングという準備があればこそのなせる技です。

場面は2死でランナー無し。守備体制は微妙に変わります。

ちょっとわかりにくいですけど、「長打を警戒した守備位置」をクリックして拡大してみてください。

ファースト、サードはライン側を固め、外野手は後ろへ守備位置を変えます。極端ではないですが、一歩、二歩でも結果が変わります。

打者は、今治西の9番吉原君です。
第一打席(2死ランナー無し)は初級から3球連続セフティバンドの構え。フルカウントから見逃し三振。
第二打席(2死一二塁)は2球連続セフティバンドの構えを見せ、フルカウントからショートの内野安打。
第三打席は(2死ランナー無し)はワンボールから2球目を打ちセカンドゴロです。
どちらかというと、なんとかして1番打者へつなごうというタイプです。

こうした打者の情報は、守備側の頭の中に入っています。相手打者によっても変更する量(距離)は違いますが、それでも基本は長打を警戒する守備体制を取ります。

そんなことしたら、三遊間や一二塁間が広くなって、ヒットが出やすいし、外野と内野の間のポテンヒットも出やすくなると思いますよね。
その通りです。そうしたヒットは出やすくなります。でも良いのです。2死ランナー無しからシングルヒット(単打)はそう怖くないのです。この場面で怖いのは長打です。長打の後は、単打で簡単に点が入ってしまいます。

ですから最悪の場面を招かいないように、長打を警戒するポジショニングをします。

通常サードは右打者の場合には、ダイビングして届く辺りまで、ラインから離れて守ります。それこそあまりライン際にいると三遊間が広くなり、ヒットが増えます。それでも痛烈な辺りは、三塁線を破られることがあります。届かないのではなく、ダイビングより早く打球が通過するのです。8回表のケースでは、桐蔭のサード橋中k君が、2死ランナー無しでの鉄則の守備位置を取っていたから、ダイビングキャッチのファインプレイが生まれたのだと思います。1死だったら三塁線を抜かれた二塁打で、上位打線につながり勢いづく今治西の追加点になっていたかもしれません。

続いて、8回裏の今治西の守備です。
三遊間にボテボテのゴロが飛びます。ショートより前に位置するサードが打球をカットします。ショートの前のゴロでも、サードが間に合うのなら飛び出して取ります。ショートより早く取れますから、アウトにしやすいのです。この下位の打球はサードがギリギリで取れず、ショートがギリギリで追いつくケースでした。今治西のショートの中内君は、逆シングルキャッチをせずに足を運んでしっかりとボールの正面に入ります。このあとの一塁への送球はワンバウンド送球です。結果は、いい送球で間一髪アウトでした。

三遊間からのワンバウンド送球

さて、なぜ、ショートの中内君はワンバウンドで送球をしたのでしょうか?

「ノーバウンドで投げろよ、ギリギリアウトじゃん」と思う方も多いかと思います。ノーバウンドで投げることぐらいできます。決して肩が弱いわけでもありません。なんていったって、名門今治西のレギュラーショートですから。

捕球までに走ってきた方向と捕球後送球する方向が逆だからです。運動方向が逆のため、捕球した際に、送球のために右足で踏ん張りを効かせますが、走ってきた慣性もあるので体重は完全に右足にかかったままです。むしろ送球後さらに右方向に体が流れるくらいです。

右投げですと、通常送球する際は、体重が軸足の右足から送球方向へ踏みだした左足に移動します。投手も投げ終わるとピッチャープレートより前に出ますよね。プレート踏んだまま投げてる人はいません。やり投げでも、投げ終わったあと何歩も行きます。全く同じです。そんな不十分な状態でノーバウンド送球をすると、コントロールが乱れるのです。暴投となる確率が思い切りアップします。

態勢を立て直していては、ほぼ間に合いません。右足に体重がかかったままで、さらに体が右に流れようとしてる態勢で送球すると、送球は上へ、右へ逸れます。もし上や右へノーバウンドの送球が逸れたら、ファーストは取れません。暴投の結果、打者は一塁セーフどころか二塁まで進んでしまいます。ですから地面に叩きつけるようにワンバウンド送球をします。もしワンバウンドの送球でも左右へ逸れたらファーストが取りにくいと思われるでしょうけど、捕球する野手が絶対取れない送球は、ジャンプしても届かない高さと、左右にダイビングしても届かない距離に送球が逸れた時だけです。

ワンバウンドで投げるということは、自分と一塁との間の地点に目標を定めて投げています。ノーバウンドでは、目標が一塁ですから、ワンバウンドより目標が遠く、態勢が悪いためブレます。ワンバウンド送球は横へも逸れにくくなり、もし逸れたとしてもノーバウンドよりバウンドさせた分、送球のスピードが殺されますから、ファーストがアウトをあきらめ、ベースから離れて捕球することが容易になります。捕球する相手のことも考えての送球なのです。

アウトにしたい、でも暴投は投げられない、最悪は内野安打でも仕方ないという究極の選択が「ワンバウンド送球」なのです。ただし、一か八かノーバウンドで投げるケースもあると思います。それは、これをアウトにしなかったら、三塁ランナーがホームインしてサヨナラ負けになる時だけです。

サードのダイビングキャッチに比べると派手さがない分目立ちにくいプレイですが、どちらかと言えば、ショートの中内君のプレイの方が技術が必要です。

勿論どちらも、ファインプレイです。良い物みたと思いましたから。

この回は両校の素晴らしい守備もあって、どちらも得点は0点でした。
試合は、6失策をした桐蔭が敗れました。守備の重要性がよくわかる対戦でした。