7月1日から9月まで、沖縄電力を除く電力9社(つまり、原発を保有している地域電力会社)のエリアを対象に、政府による節電要請が始まった。
新聞やテレビなどメディア系のニュース各社が報道する中で、NHKのNEWSウェブに掲載された記事のタイトルが、1社のみぶち抜けていた。
タイトルはこう。「原発未稼働の夏 節電呼びかけへ」
たしかに原発はすべて停止中だが、今後稼働するかどうかは現地点では分からない。再稼働の可否は、規制委員会による安全審査や、立地自治体との話し合いの先の話だ。いくら政府がベースロード電源との言葉で推進を打ち出しているとしても、強引な手法で再稼働が断行される恐れがあったとしても、未定であることに違いない。しかしNHKがニュースの見出しに掲げた、
「未稼働」とはどういうことか?
働くはずのものがまだ動いていない状態を指して「未稼働」と言う。逆に言うと、いまだ稼働していないという言葉は、そのうち稼働するという含意を読み取られても仕方ない。
「未稼働」だけなら、まだ稼働していないということとも取れる。
しかし、「の夏」と時間軸を表す言葉が引っ付けば、それは「現時点で」「いまだ」「稼働していない」。過去には稼働していた訳だから、要するに将来は稼働するという意味になってしまう。
不注意というにはあまりにも幼稚すぎる。再稼働を見越してのフライングなのか、再稼働推進を匂わせたい放送局としての事情があったのか。公共放送と胸を張るNHKがどうしてこの言葉を選んだのか、その理由がわからない。
ちなみに他社の見出しを見てみると
節電要請そのものは重要度が高いニュースだ。西日本、とくに関西電力と九州電力のエリアでは、予備率がぎりぎりで東日本の電力会社から電力を融通して凌ぐという。数値目標は掲げられていないが、しっかり節電を心がけたいと思う。
そこで同じニュースを他紙がどう伝えたか、見出しを並べてみると……。
【読売新聞(YOMIURI ONLINE)】
西日本、厳しい夏に…「原発稼働ゼロ」節電開始
【読売新聞(YOMIURI ONLINE)】
原発ない夏、節電アツく…要請期間スタート
【日経新聞】
夏の節電期間スタート 西日本で需給厳しく
【MSN産経ニュース】
「原発ゼロ」の夏 1日から節電期間
【毎日新聞】
節電要請:原発頼らぬ夏…7月1日スタート、初の稼働ゼロ
【朝日新聞 DIGITAL】
夏の電力、東西格差 原発ゼロ、きょうから節電要請
再稼働を是とする社説をバンバン掲載する何紙かでも、「未稼働」などという言葉は出てこない。主張うんぬん以前の問題だからだろう。
どんなに立派そうに見えても、新聞やテレビのようなメディアが言うことを鵜呑みにしてはならないという、「21世紀の常識」にを改めて考えさせられる出来事だった。
と、締め括りながらふとこうも思ってしまうのだ。アシナガバチの縞模様は、危険な虫ゆえ気を許すなとのしるし、みたいなことを言った小説家がいたけれど、この記事の派手なチョンボもまた、公共放送だからといって気を許すなよとの、NHK政治部記者の親切なのかもしれないと……。