大飯原発裁判で福井地裁が「差し止め認める」

裁判所前に翻える「司法は生きていた」との垂れ幕

関西電力の大飯原発3号機、4号機の運転差し止めを住民らが求めていた裁判で、福井地裁は樋口英明裁判長が住民側の主張を認め、運転差し止めを命ずる判決を出した。

新聞各紙に掲載された写真では、「差し止め認める」「司法は生きていた」との垂れ幕を掲げる弁護士の姿が伝えられている。

関西電力大飯発電所3,4号機

ポイント1:原発の耐震性に司法が判断

判決のポイントは大きく3つあげることができるだろう。

関西電力大飯発電所は、東京電力の原発事故の後、浜岡原発を筆頭に全国の原発が定期点検で運転停止されていく中、唯一運転を再開(その後昨年9月に定期点検で停止)した原発だ。フェアな形での基準審査が行われないまま運転再開が行われた原発に対して「地震に対する安全対策が不十分である」と司法が判断を下した意味は大きい。かつての民主党政権で判断された再稼働が否定された形だ。

ポイント2:250キロ圏の被告の訴えを認めた

画期的なのは、原発から250キロ圏内の被告166人について訴えを認めた点だ。原発で事故が発生した場合の当事者が、原発が立地する自治体や、漁業権を有する漁協だけでないことを認定したことになる。被害が広範囲に及ぶことが2011年の事故によって明確になった以上この判断はきわめて順当なものながら、時代を画するものと評価できるだろう。

ポイント3:今後の裁判、規制委、地元の判断に注目

原子力発電所をめぐる訴訟で住民側の主張が認められることはほとんどなかった。住民側の訴えを認める判決が地裁で出されても、高裁・最高裁で退けられてきた。福島での東電原発事故の後、これまでの司法判断が変化していくことになるのか。関西電力は、判決が下される朝にも新燃料集合体を三菱原子燃料株式会社から受け入れた。一審判決を受けて大飯発電所の運転を取りやめることは考えにくい。今後の裁判のゆくえと、並行して進められる原子力規制委員会の審査、さらに地元自治体の判断が注目される。

追記:驚きの判決文(5月22日)

福井地裁の判決文を読みました。上記にあげたポイントのみならず、これはとても大きな意味をもつ判断です。たとえば、判決文には概略以下のような記載があります。

▼新しい技術が潜在的にもっている危険性を一切認めないとすれば、社会の発展はなくなるだろう。

▼その技術がもつ危険性の範囲が明らかでなければ、その技術を使うことの可否を裁判所が判断するのは困難を極める。

▼しかし、技術の危険性の性質やその被害の大きさが判明している場合には、その危険性に応じた安全性が求められることになる。

▼この場合、裁判所は求められる安全性が保持されているかどうかを判断すればいいだけである。

▼原子力発電技術の危険性の性質と被害の大きさは、福島原発事故で十分明らかだ。

そして、次のように論をつなげるのです。

本件訴訟においては,本件原発において,かような事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とされるべきであり,福島原発事故の後において,この判断を避けることは裁判所に課されたもっとも重要な責務を放棄するに等しいものと考えられる。

引用元:5/21 関西電力大飯原発3,4号機運転差し止め訴訟 福井地裁判決謄本 | 原子力資料情報室(CNIC)

過去の原発訴訟では、「技術がもつ危険性と社会の発展」という葛藤があったかもしれないが、東京電力の原発事故を経験し、その危険の性質と被害の範囲が明らかになった今日では、判断基準は明確だ――。

引用した最後の一文は、おそらく歴史に残るものになることでしょう。

また、判決では、原子力発電の技術は専門的だが、その安全性を判断するにあたっては必ずしも専門性は必要とされず、裁判所による判断は可能であるということも述べています。

判決の詳しい内容については、あらためて別稿として紹介することにします。

文●井上良太