前編のあらすじ
男体山は栃木県・奥日光にある山で、標高は2486m。中禅寺湖畔に腰をおろすかのように、湖岸近くにそびえており、いつかは登ってみたいと思っていた山だった。
2012年秋。紅葉の頃を見計らって、男体山に登るべく、奥日光へ向かう。登山当日の朝、雲はあったものの、まずまずの天気だった。秋らしい気持ちのよい、登山になるはずだったのだが・・・。
のどかな紅葉登山のはずが・・・
登山を開始してしばらくは、太陽も顔をのぞかせており、いい登山日和だった。
しかし、紅葉気分を楽しむことができたのは、最初だけだった。
日が昇るにつれ、風は強さを増していった。そして、それに伴うように雲行きもだんだんと怪しくなっていった。
7合目に差し掛かったころだろうか。天候は急速に悪化し、小雪もぱらついてきた。閉山しているだけあって、天気が崩れてくると、かなりの寒さだった。
上空には強い風が吹いているのだが、樹林帯の中にいるおかげで、影響は限定されていた。ただ頭上からは「ゴォーー」という、遠吠えのような激しい風の音が聞こえてくる。
当初の予定では、山頂で登頂気分に浸りながら、昼食をとるはずだった。しかし 「こりゃあ、樹林帯抜けたら、頂上で昼ごはんどころじゃないな。」と思い、風をじかに受ける山頂付近の岩稜地帯をさけて、その手前で食事をとることにした。
登山道が少し広くなったところで、ザックを降ろす。そして、調理用のバーナーを取り出し、お湯を沸かすと、持って来た即席麺を放り込んだ。登山道を吹き抜けていく風で、バーナーの炎が安定しない。身体を風よけにする。
立ち止まると、余計に寒さを感じたのだが、この時はまだ、ましであったことをすぐに思い知ることになる。
食後、再び登り始める。樹林帯はまもなく終わり、人の背丈ほどの低木が生える岩稜地帯へと変わった。
案の定、樹林の保護を抜け出ると、激しい風が容赦なく襲ってきた。木々は、着氷現象である霧氷に覆われて白くなっており、まるで冬山のようだった。もう我慢できる寒さではなかった。たまらず、フリースの上にレインウェアーを着こむ。
強い風と寒さは、山頂で最高潮をむかえた。風が猛烈に吹き荒れ、恐ろしく寒い。優雅な紅葉登山のはずが一転、ちょっとした冬山気分になってしまった。
頂上付近には、日光二荒山神社の奥宮などの建物が建てられているのだが、その軒下には、つららができていた。久しぶりに見る氷の造形物だった。地元静岡の真冬よりもはるかに低い気温だと思われる。あまりの寒さに、1軒の小屋に入り、風をしのぐことにした。
中に入ると、そこにはすでに先客が3人いた。同じ登山者だった。やはり、あまりの風と寒さに耐えられず、逃れてきているようだった。彼らは、外の様子をうかがっている。
「まるで、冬景色ですね。」と声をかけると、
「ほんと寒いねえ。まさかこんなに荒れるとはねえ」と返事が返ってきた。
外は、激しい風が荒れ狂い、細かく硬い砂のような雪が、小屋の壁や地面をたたきつけていた。
小屋に10分ほどいて、体が少し温まってくると、外にでて山頂付近を歩くことにする。相変わらず、激しい風が吹き荒れており、不意に襲ってくる突風に、何度も体を持っていかれそうになる。
まず、男体山頂上に設置された三角点に行く。その後、付近を歩きながら、この後、どうするかを迷っていた。当初の計画では、志津小屋を経由して、三本松の登山口に下山しようかと考えていた。しかし、この天候では、通ったことがない、不慣れな山道は避けた方が無難に感じた。
三本松コースに未練があったが、元来た道を戻ることを決断すると、再び小屋に戻って、風が弱まるのを待った。
小屋で天候が落ち着くのを見計らっていると、空の一部が少し明るくなってきた。このタイミングで下山することにする。ザックを背負い、小屋を出る。
そして、下り始めようとした、その時だった。
あたりを覆っていたガスが薄くなったかと思うと、視界が一部開けて、下界があらわれた。
思わず息をのむ。
なんともいいようのない、神々しい世界がそこにあった。
白い雪で薄化粧した低い木々のバックには、中禅寺湖や戦場ヶ原が広がっていた。厚い雲の切れ間から陽光が差し込み、黄色い絨毯のような高原、湿地帯に降り注いでいる。
しばらくのあいだ、寒さを忘れて、見とれてしまった。
10分ほど、その光景を堪能した後、下山を開始する。
復路は休まずにひたすら下り、再び、二荒山神社の登山口に下山をしたのだった。
一般的なコースタイム
「日光二荒山神社中宮祠」
→→→[徒歩:約1時間20分]→→→
「四合目」
→→→[徒歩:約2時間10分]→→→
「山頂]
→→→[徒歩:約1時間30]→→→
「四合目」
→→→[徒歩:約50分] →→→
「日光二荒山神社中宮祠」
※ コースタイムは標準的な時間です。所要時間は人によって大きく変わります。
時間はあくまでも目安として、余裕をもった登山計画を立てて下さい。
男体山
下山後
麓は、山頂とはうって変わり、いい天気だった。いつも下から見上げていた男体山。下山後しばらくは、ちょっとした満足感に満たされていた。
日没までは、まだしばらく時間があった。
登山ザックを車に放り込むと、山頂から見た黄葉の景色につられて、戦場ヶ原・湯ノ湖へ行くことにした。
戦場ヶ原周辺は、ちょうど、カラマツが見ごろをむかえていた。ぶらぶらとカラマツ林を散策する。改めて、奥日光の魅力を感じた。また、この季節に来たいと思いながら、奥日光を後にした。
黄金色に輝くカラマツ林の後ろには、どっしりとした男体山がそびえており、その山頂はうっすらと白くなっていた。
Text & Photo:sKenji