書評で取り上げさせていただいた「原子力ドンキホーテ」の著者、藤原節男さんが情報のシェアを呼びかけている。
藤原さんが拡散を呼びかけているのは、原子力発電所等で事故が発生した時、だれがどれだけの責任を持つのかを定める「原子力損害賠償制度」の問題だ。原子力の技術も設備も燃料も運転のノウハウもアメリカから輸入した日本だが、原子力損害賠償についてはアメリカから導入する際に、「変更」が加えられたそうだ。その変更が、原発事故対応に重大な支障を生じさせていると論を展開する。
藤原さんの意見への賛否のみならず、原子力損害賠償制度について知ってもらうため、藤原節男さんの「原子力損害賠償法の日米相違」を全文引用させていただきます。
件名:原子力損害賠償法の日米相違
日本は、米国から原子力発電所の設計、製造、運転に関する技術を輸入した。同時に、日本国政府の原子力規制組織や法律も輸入した。法律では、原子炉等規制法、安全設計基準、原子力損害賠償法(原賠法)などを輸入した。
原賠法については、米国法律では、一定額以上の無限賠償は、政府が責任を持つことになっている。つまり、地震、津波など自然現象で原発大事故が生じた時の、被災者に対する多額の損害賠償は、政府が責任を持つことになっている。弱小電力会社が多い米国で、原子力発電所が100基以上もできた理由は、この米国原賠法があるためです。
ところが、日本に原賠法を輸入した時に、官僚が鉛筆をなめて「政府が電力を援助する」形になった可能性が強い。福島原発事故では、東京電力が原子力損害賠償の主体となって、国が東京電力を支援する形です。米国では政府責任、日本では電力責任。だとすれば、これは重要問題です。日本国政府は、原子力損害賠償支援機構法で、東電に資金援助して賠償業務を東電に任せている。東電は例えば、社長、会長の退職金を5億円も支払いながら、賠償業務を実施している。
福島1号機では、地震加速度が設計条件よりも低いにもかかわらず、イソコン(非常用復水器)配管破断が生じ、LOCA(冷却材喪失事故)が生じた可能性大です。2011年3月14日午前11時01分の福島3号機爆発は使用済み燃料プール核爆発の可能性大です。これらが事実であれば、福島原発事故原因は、イソコン配管耐震設計の不適合、使用済み燃料プール未臨界設計の不適合などです。福島原発事故原因は、原子炉設置許可申請書記載事項違反、設計製作、安全管理の業務上過失となります。 福島原発事故が原因で放射線障害を受けたり、死亡したりすれば、業務上過失傷害、業務上過失致死です。それゆえ、東京電力をはじめとする原子力村組織では、必死で事故原因の証拠を隠滅、隠ぺいしています。証拠隠滅、隠ぺいも犯罪です。
福島原発事故原因が東電の業務上過失であれば、政府が東電に資金援助して賠償業務を東電に任せることは「泥棒に追い銭」になる。事故原因究明を徹底的にやり、東電の業務上過失(犯罪)を明確にし、東京電力の破綻処理をすることが必要です。福島原発事故後始末の手順をまちがえてはいけない。手順をまちがえると、どんなに手段、制度を検討しても見当違いになる。
【米国原子力損害賠償法】
1998年(平成10年)修正プライス・アンダーソン法(Price-Anderson Act:PA法)
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=10-06-04-02 ←原子力百科辞典ATOMICA
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/10/10060402/01.gif ←原子力百科辞典ATOMICA表1
http://goo.gl/wY7Y0E ←米国英文ウィキペディア
Companies were relieved of any liability beyond the insured amount for any incident involving radiation or radioactive releases regardless of fault or cause.
http://goo.gl/6yvYMa ←和文ウィキペディア
【日本国原子力損害賠償法】
原賠法 (原子力賠償法:原子力損害の賠償に関する法律)の第二章および第四章を以下に示す。http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO147.html
第二章 原子力損害賠償責任
(無過失責任、責任の集中等)
第三条 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
第四章 国の措置
(国の措置)
第十六条 政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。
2 前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。
第十七条 政府は、第三条第一項ただし書の場合又は第七条の二第二項の原子力損害で同項に規定する額をこえると認められるものが生じた場合においては、被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする。
(注) この文言に沿って、平成23年8月3日、原子力損害賠償支援機構法が成立している。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/taiou_honbu/
「泥棒に追い銭」とは相当辛辣な表現ですが、政府が資金注入を行い実質国有化したことで、損害賠償・廃炉に関する施策を行う際に「東京電力の存続」について考慮されないとは言い切れないでしょう。
現に被害を受けた人たちの救済と、将来に禍根を残さないための廃炉こそが、東京電力を運営する上での至上命題であることは論をまちません。
再シェア●井上良太
原子力ドン・キホーテ藤原節男氏【原発は廃止すべきか?】横須賀講演
藤原節男さん
元原子力安全基盤機構検査員
元三菱重工業(株)原発設計技術者
藤原 節男(Fujiwara Setsuo、原子力公益通報者、原子力ドンキホーテ)
単行本「原子力ドンキホーテ(藤原節男著、ぜんにち出版)」絶賛発売中