「海がそれでも好きだから」わたしが口癖のように言っている言葉にピアノを弾く友人は曲を付けてくれた。
海が好き 海から吹く風の匂いが好き
朝、夕 聞こえる網地島ラインの汽笛の音が好き
そんな町で育った そんな町が大好きだった
ある時期「海が好き」という言葉を言えなくなってしまった時があった。
海が大切な町を飲み込み大切な全てのものを飲み込んいったあの時、誰も海には近寄らなかった 近付けなかった
怖かったから そして何より大好きな海を恐ろしく感じてる自分が悲しかったから
でもね…キラキラ輝く水面 カモメの鳴き声 頬や唇に触れる潮っぽい風 そして波の音。
あんなに悲しい思いをしたのに
あんなに恐ろしい思いをしたのに
海がそれでもやっぱり好きなんだ
子供の頃、海が見える公園で自転車乗り覚えたっけ
海の仕事をしていた父ちゃんの船に乗り川開きの花火を目の前で見たっけ
全ての思い出に優しい波の音があり
全ての記憶に潮の香りがあった
悲しいけどあの場所はわたしにとって悲しみの象徴ではない
悲しいけどやっぱりあの場所に癒されるんだ
海がそれでも好きだから
海がそれでも好きだから
大好きなあの場所 大好きなわたしの居場所
2014年3月1日 / 文●新柵ひろ子