釜石市・鵜住居(うのすまい)2014年の元日

国道45号線を釜石の市街地から北に向かうと、両石という集落を過ぎ、曲がりくねった山道を越え、鵜住居という地区にやってくる。平地に入ってしばらく行くと国道は左にカーブ。そこには信号があって、直進できる道が残されている。直進方向が青信号だったのに導かれて真っ直ぐ入っていくと……。

ここは何だろう?

2014年1月1日午後の鵜住居地区

土手の脇にトンネルのような入り口がある。どことなく秘密基地を思わせる佇まい。
バリケードで封鎖されたトンネルを覗いてみると、壁には壁画のようなものが描かれている。

こども達が遊ぶ施設だったのかな?

トンネルは通れない。でも、バリケードの横には明らかに土手を上るための小道が刻まれていた。スロープにはちょっと大きめの砂利。よくみかける石ころよりかなり大きめのしっかりした石が、敷かれているわけでもなく、といってばらまかれたという風でもなく、土手の斜面にあふれていた。

土手の上の四角い構造物に書きこまれた「UKISAR」ってなんだろう。17/3って…、あぁ、3月17日ってことか。UKは英国? I はインターナショナル? S はサーチで捜索か。だとすると最後のRはレスキュー?

「United Kingdom International Search & Rescue Team 」。意味が分かった。略号はイギリスからの救援・捜索チームが3月17日に捜索したことを示しているんだ。

しかし、この場所は何のためのものだろう。土手を上ってもよく分からなかった。

土手の上から見渡す鵜住居は、ほとんど一面更地だ。

南側を振り返って、黄色い点字ブロックが並ぶのを見て、やっと駅だと了解した。土砂が堆積して、路面とホームの間は階段ほどの段差しかなかったし、ホーム内部もえぐれてホームの態をなしていなかったから分からなかった。

駅のホームだったんだと了解したとたん、おぼろげながら新聞などで見た位置関係が思い浮かぶ。ひとつ上の写真の右上、橋のあたりには中学校と小学校があって、そこからこども達は高台に向かって避難して行った。たぶん、上の写真の左手に見える道をたどって。

避難場所に指定されていた場所まで逃げたところで、津波が迫ってくるのを見て、上級生達が率先してさらに高台へ避難を続けた。「釜石の奇跡」と呼ばれたこども達の避難が行われた場所だ。

こうして地下通路からの階段を見ると、駅であったことがはっきりする。

しかし、階段通路の外壁にはこんなペイントも。岩機は岩手県警機動隊の略号か。マルとバツが組み合わされているのが何を意味するのか。手を合わせ、その方の苦しみと無念を思い、ご冥福をお祈りします。

駅のホームの真向かいに残された解体中の建物は「地区防災センター」。防災センターという名前と、避難訓練でしばしば避難場所として利用されていたことから多くの住民がこの建物に避難し亡くなられたとされる建物だ。報道では年内に解体と告げられていたが、作業半ばで年末年始を迎えた様子だった。

地域の多くが壊滅した平地、しかも低地にあるにも関わらず、多くの人たちに避難場所だと誤解させてしまった「防災センター」というネーミングは、防災という名前をつけないと予算がおりなかったからからだという話もある。

釜石の奇跡と賞賛される小中学生の無事の避難があった一方、鵜住居地区では500名を越える死者・行方不明者が出たという。

津波被害直後の写真をネットなどで探すと、破壊され倒壊寸前の建物の姿をたくさん見ることができる。しかしいまでは鵜住居地区の平地部に残された建物はごくわずかだ。そんな中のひとつ、立派な土蔵にはいまもなお、屋上に当時のがれきが残されている。そして土蔵の外壁には「3月17日11時に捜索」とのUKISARが書き記した略号がいまも残る。

山と海に囲まれた地域で、真っ平らに見える場所はことごとく、そこに人の営みがあった場所だ。家、店舗、会社……。その場所がいまは更地として広がる。

津波直後、その場所を埋め尽くしていただろう建物の残骸、家具や生活用品、クルマ、ありとあらゆる人の生活の道具などは、見たところかなり片付けられている。でもそれは、マイナスだった状況がようやくプラマイゼロに近づきつつあることを意味しているに過ぎない。

そんな中で少しでも明るい兆しを探してみたら、更地となった国道沿いに掲げられたバナーがあった。その小旗にはこう記されている。

ラグビーワールドカップを釜石で!!
2019釜石

東京オリンピックの前年、必ずや釜石でラグビーワールドカップが開催されてほしい!
復興と足並みを合わせて進める観光誘致、国際スポーツ誘致、その一環としてのオリンピックの実現を!!

そんなかけ声が、少しでも東北人が立ち上がる応援になるように!
(老婆心ながら、見捨てられたなんて思わせることなど決してないように!)

と・も・に !!

写真と文●井上良太