今月16日、宮城県と防災関係機関などでつくる宮城県津波対策連絡協議会が、津波対策ガイドラインの一部を見直しました。これまで「原則徒歩で避難する」としていたものを、状況により自動車の使用も一部容認する内容が盛り込まれると、新聞各社が今月17日付で報じています。
宮城県は、2003年に県津波対策ガイドラインを策定していますが、東日本大震災の教訓を踏まえて、指針の見直しを行っていました。
一部、自動車での津波避難を容認
新しいガイドラインでも「原則徒歩での避難」ということには変わりはなく、「徒歩による避難が可能な場合は自動車で避難しない」とのことです。
車による避難は、道路渋滞を引き起こし、緊急車両の通行の妨げや、渋滞に巻き込まれて身動き取れなくなった車が津波に襲われる危険性があります。実際に、東日本大震災でも渋滞中の車が、津波に襲われて多くの犠牲者をだしています。
しかし、その一方で、障害者や要支援者、また津波避難場所まで遠い場合など、自動車で避難をせざる得ない状況があることも事実であり、今回の指針はそれを踏まえて改正されています。
繰り返しになりますが、宮城県の新しいガイドラインでも「原則は徒歩での避難」であり、一部の人には、自動車も容認するというものです。
車による避難の問題点
ガイドラインで、状況により自動車での避難が一部容認されたとはいえ、危険性、問題点がなくなったわけではありません。
自動車で避難する際の問題点について、内閣府のWEBサイト「防災情報のページ」によると、「車の渋滞」と「地震による道路の被害や道路上の瓦礫などの障害」が多いというほかに、下記の障害も報告されています。
■避難路の問題点
○停電による信号機の滅灯
・信号が止まって移動しにくかった。
・停電により信号機が停止していたことで混乱した。
○地震の揺れによる道路被害
・マンホールが隆起していた。
・道路が液状化していた。
・地震の揺れにより道路がひび割れていた。
○渋滞の要因
・避難しようと思っていた道路が通行止めになっていた。
・線路の警報器が鳴っていて、自動車が渋滞していた。
○その他
・路上駐車している自動車が邪魔だった。
・避難場所までの山道が狭かった。
・トンネル内が停電していた。
・落石があった。
・目の前で電柱や柱が倒れて火花が散って怖かった。
自動車で避難する人は、上記の事例や途中で渋滞に巻き込まれたときのことを十分に検討しておくべきかと思います。もし、途中で車による避難をあきらめる場合は、交通ルールを定めた「交通の方法に関する教則」に書かれている
・できるだけ道路外の場所に移動しておくこと。やむを得ず道路上に置いて
避難するときは、道路の左側に寄せて駐車し、エンジンを止め、
エンジンキーは付けたままとし、窓を閉め、ドアはロックしないこと。
・駐車するときは、避難する人の通行や災害応急対策の実施の妨げとなるような
場所には駐車しないこと。
を順守するようにします。
車による避難の被害事例
東日本大震災においても自動車での避難中に、津波の犠牲になった方も多いようです。以下、朝日新聞の記事より引用です。
東日本大震災の地震の直後、被災各地で渋滞が起こり、車列ごと津波に流されていたことが、生存者らの証言で分かった。
(中略)
同市に隣接する仙台市若林区の渡辺静男さん(59)は、避難場所の小学校へ駆け足で向かう途中、信号の消えた県道交差点で車が立ち往生しているのを見た。警察官は車をたたいて避難を呼びかけたが、車を捨てて逃げる人の姿は見なかった。小学校に駆け込むと同時に津波が到来。校舎は3階まで水没し、車列が濁流に流されていたという。
上記以外にも、渋滞に巻き込まれて、津波の犠牲になった方の話は、東日本大震災に限らず、報告されています。
車で避難する場合は事前検討を
上記事例のように、自動車での避難には危険性、問題点がありますが、車で避難したからこそ助かったという例も少なくありません。歩行が困難な方や避難場所まで距離がある方は、車を使用して避難せざるを得ない現実もあります。
「防災情報のページ」によると、過去の津波避難での自動車の使用率は、東日本大震災で全体の約57%、平成5年(1993年)北海道南西沖地震は42%、平成15年(2003年)十勝沖地震は74%となっています。
今回の改正で、自動車での避難のあり方、避難計画について、より現実的な対応の検討をすることができるようになるのではないでしょうか。
あくまでも、「徒歩での避難が困難な人のみ」容認される車による避難ですが、対象の方は、事前に避難ルートや渋滞した時などのことを検討して、備えることが大切ではないかと思います。
宮城県の新しいガイドラインは、来月に公表されるとのことです。
参考WEBサイト
Text:sKenji