こころのつぶやき Vol.5 ~ジェイと千羽鶴と千日~

東日本大震災から千日

会社の同僚にジェイというイギリス人がいる。
陽気で、趣味が似通っていることもあり、彼とは、仕事が早く終わる日を見計らって、月に1回は飲みに行っている。

そんな彼が、昨日の帰り際に「これから、飲みにいかない?」といきなり声をかけてきた。時間も遅いし、翌日仕事もあるから一瞬迷ったが、気分転換もしたかったので、彼の誘いに乗ることにした。

彼と近くの居酒屋に行く。
ジェイと話す時はだいたい決まってマリンスポーツの話になる。彼はカイトサーフィン。僕はウインドサーフィンが趣味だ。いずれも風次第のスポーツであり、似ているところもあるのでその話で盛り上がる。

しかし、昨日は「仕事はどう?」とジェイが尋ねてきたことをきっかけに、東日本大震災から1000日目という話題になった。震災の話の途中で、ジェイは
「日本人にとって『千』という数字は特別だよね」と言った。僕は
「イギリス人は違うの?」と聞くと、
「イギリスじゃあ、1000日目は特に意識しないよ」と言った後に、彼は
「日本では、紙で折る千個のえーっと、なんだっけ?あの鳥・・・」と言い淀んだ。僕が
「ツル?」と合いの手を入れると彼は、
「そう、それ!。ツルを千個折るでしょ。日本人にとっては、千は特別な数字なんだよ」と言っていた。

その千日が東日本大震災が発生してから経過した。
ジェイと「千」という数字について話をしながら、東北の被災された方、支援を続けてきた方たちのことを考えていた。
東北でお会いした方々の中には、家族・親戚を失いながらも、郷土の芸能を通して多く人に元気を与えたいと活動されている人たちもいれば、放射能汚染と戦いながら安全で美味しいお米を作ることに奮闘している農家の方々もいた。東北とはほとんど縁もゆかりもなかったのに、東北が直面した困難を目の当たりにして、文字通り人生をかけて、東北を盛り上げていこうとしている方もいた。
出会ったみなさんの行動力と頑張っている姿を間近でみて、いったい自分には何ができるのだろうかと、ここ最近ずっと思っていた。

これからの千日

結局、ジェイとは、最終電車まで飲み続けた。

帰宅後、Eメールをチェックをして、寝ようかと思ったのだが、ふと、千羽鶴のことが気になり調べてみた。そして、千羽鶴の由来の詳細を知った。

千羽鶴は、太平洋戦争末期を生きた一人の少女に由来していた。彼女の名前は、佐々木禎子さん。2歳の時に、住んでいた広島に原爆が落とされて被爆している。その後、元気に成長したのだが、11歳の時に突然、白血病を発症して入院する。その入院中、折鶴を千羽折れたら元気になるということを信じ続けて、8か月に及ぶ闘病生活の中、一生懸命に薬の包み紙などで鶴を折ったのだが、願い叶わず、12歳という若さで亡くなったとのことだった。

生きたいと願い、鶴を折り続けた少女。彼女は、思い半ばでこの世を去ったが、彼女の同級生がその思いを受け継ぐかのように、鶴を折ったと言う。

震災で、今日という日を迎えられなかった方が2万人以上いる。鶴を折り続けた少女と彼女の同級生の話を知り、自分には鶴を折る代わりに何ができるのだろうかと思った。

正直なところ、何ができるのかわからなくなっていたのだが、千日が経った今、もう一度、自分に何ができて、何をすべきなのか考えたいと思う。ジェイの言っていた「千」という数字は、それ自体が特別なものではなく、自分自身で特別なものとする数字なのかもしれない。

Text:sKenji