試合終了を告げるブザーが鳴った。
女川中学女子バスケ部の選手たちがコートから引き上げる。試合結果は、38-57。涙を呑む。
静岡県浜松市にある「浜松アリーナ」。
ここで、第43回全国中学校バスケットボール大会が開かれていた。
8月23日、女川中学女子バスケットボール部が大会に出場するというので、応援を兼ねて取材に来た。
女川中学は、宮城県牡鹿郡女川町にあり、今年4月に女川第一中学校と女川第二中学校が統合されて新たに開校した。
この日は全国大会の予選で、試合は2試合行われた。1試合目は、「58-47」で女川中学の勝利。そして今、2試合目が終わったところだった。
試合を終えた選手たちは、体育館2階の観客席に戻り、引き上げる準備を始めていた。話を聞くために、選手たちのもとに行く。
しかし、いざ声をかけようと思っても、話しかけることができなかった。試合中、リードしている時も、されている時も冷静にプレーをしていたかのように見えた選手たちが、いま、感情を必死に押し殺しているのだ。
張り詰めた重い空気がその場にあった。うっすらと涙を浮かべている選手もいる。話を聞かなければいけないと思いつつも、今は声をかけてはいけないと思った。
選手たちの様子を見て、声をかけるタイミングを待つことにした。
しばらくの間、少し離れて選手たちの様子を見ていた。しかし、結局、声をかけることができないまま、選手たちは後片付けを終えて、体育館の外へ出て行ってしまった。
タイミングを逸してしまった。そう思っていると、選手の父兄の計らいにより、写真撮影ができることになった。
急いで、選手たちの後を追う。
彼女たちは、体育館の出入り口前にある階段の下で話をしていた。表情は、先ほどと比べるといくぶん明るく見えた。今なら話しかけても構わないかなと思って近くに行くと、足を引きずっているひとりの選手がいた。気になって彼女に
「足、怪我したんですか?」
と声をかけてみる。
「はい。」
礼儀正しさを感じさせる返事だった。
「さっきの試合で怪我をしたのですか?」
「いえ、一試合目です。」
「えっ?、その足でさっきの試合にでていたの?」
「はい。怪我は関係ないです。」きっぱりと言った。
彼女の足の状態を見る限り、まともにプレーができるとは到底思えなかった。
そこまでして試合に出ようとする理由が気になって聞いてみると、
「私は3年生ですし、声を出すことにより、チームのムード作りの役割もあると思っています。自分が抜けることにより、チームに影響を与えてたくはないです。」
と答えた。チームへの想いが多くを語らなくとも伝わってくる。
しっかりとした受け応えと、彼女の考え方に尊敬の念を覚える。この日のために、今まできつい練習を積み重ねてきたのかと思い、
「練習は週何日しているのですか?」
と聞いてみる。
「ほぼ毎日です。夏休みは、午前9時~12時まで練習しています。加えて、火、金曜日の週2回は夜の18時~21時も練習します。」
「練習が終わった後は何をするの?」
「疲れて寝るか、勉強をすることが多いです。2年生は、2~3人で集まって勉強をしているみたいです。」と丁寧に答えてくれた。
学業の他は、全てをバスケットボールに注いでいるようだったので、
「バスケの練習以外でやりたいことは、ありますか?」と尋ねると、
「うーん」と少し考えた後、
「プリクラ撮りたいです。3年生だし、友達との想い出作りをしたいです。」
と少し照れながれら教えてくれた。
写真撮影
写真撮影は、選手たちが帰りの車に乗る際に、体育館の駐車場で行われた。
辺りはうす暗くなってきていた。選手8名とコーチ1名の計9名が二列に並んだ。
撮影する際に大声で聞いてみた。
「どこのチームとやりたいですかー!」
「フジナミ!」
優勝候補に目されているチーム名を全員迷わず一斉に答えた。
「勝てますかー!」
「勝ちます!!」
みんな力強く叫んだ。更に、
「絶対に勝ちますかー!」と重ねて聞くと、くどい質問に一瞬間が空いたものの、
「勝ちます!!」
と元気よく笑顔で答えてくれた。
みんな、試合直後に観客席で見た表情とは別人のような、はつらつとした明るい素敵な笑顔だった。
試合後、挨拶をするために伺った際に、女川中学バスケットボール部部長が言っていた。
「できることならば、選手たちには強いチームと対戦させてあげたい。そして、いい経験を積ませてあげたい」と。「いい成績よりも、いい経験を」そんな思いを選手たちは知ってか知らずか、強敵との対戦を望んでいた。
組みやすい相手と対戦して、少しでもいい成績をあげたほうがいいのかなと思ってしまっていた自分のせこい考えを、彼女たちの試合に対する姿勢が、爽やかに「その考え方は小さいよ」と教えてくれているようだった。
最後に彼女たちは、「女川ポーズ」です。と言って、チャーミングなポーズを決めてくれた。
「女川ポーズ」
いったい何なのか。その由来については、結局、最後まで教えてはくれなかった。
会ったばかりの人間には、教えることができない、秘密の意味を持ったポーズだったのかもしれない。
「女川ポーズ」の謎、それだけが心残りではあったが、清々しい気持ちで浜松アリーナを後にした。
その後
予選の成績が1勝1敗だった女川中学は、翌日の決勝トーナメントに進んだ。
翌日のトーナメントは、会場で応援することはできなかったが、惜敗だったという試合結果をインターネットで知った。
決勝トーナメント試合終了後、彼女たちは何を思ったのだろうか。
試合には負けたかもしれないけど、同年代のトップレベルのプレーから受けた刺激や、ひたむきな想いで戦った試合の経験は、今後の練習や彼女たちの人生にとって、かけがえのない貴重なものとなるに違いないと思った。
別れ際に見せてくれた、選手たちのはつらつとした笑顔がとても印象深く残っている。
今日も東北の地で、みんなで賑やかにあの「女川ポーズ」を決めているのだろうか。そんなことをふと思ってしまった。
Text & Photo:sKenji