秘島・渡鹿野島の「天王祭」が見たい!【青春18きっぷ道中記 伊勢志摩編vol.1】

青春18きっぷを手にすると、どれだけ電車に乗っていても平気になってしまう。

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  ・JR北海道からJR九州まで、すべてのJRの普通列車が乗り放題になる。
   (特急列車は不可)             ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ・使用期間は大まかに春、夏、冬。学生の休暇時期と重なるように設定される。
  ・5枚つづり11,500円で販売されるため、1日あたり2,300円で乗り放題。
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不思議な魅力ただよう渡鹿野島の祭事を観に行く

2013年7月20日(土)。静岡の自宅最寄駅・三島駅から、三重県・伊勢市駅を目指す。

7月20日は待望の「夏の青春18きっぷ解禁日」。この日を皮切りに9月10日まで、JRの普通列車は乗り放題だ。僕はふと思い立って、三重県の渡鹿野島(わたかのじま)に行くことに決めた。静岡の自宅を出たのは午前8時。時計の針は14時をまわろうとしていた。

車窓からの風景

―――渡鹿野島。この島は知る人ぞ知る秘島である。

場所は三重県的矢湾。近畿~東海地方では有名な観光地「志摩スペイン村」のすぐ近くに浮かぶ小さな離島だ。いわゆる元・遊郭の島。その昔は、太平洋上を航行する船が悪天候時に避難する「風待ちの島」だったという。そのため、そんな船乗りの男衆を相手にする遊女たちが集まるようになり、いつしか遊郭街(つまり性風俗)のある島として栄えたそうだ。

そんな島ゆえ、今もなお当時の妖艶な雰囲気を残しているらしく、アダルトな一面を持った、一種独特な島として知られている。昔からの風習が、現在にまで伝わっているようだ。

だが僕は、長時間列車に揺られ、お金をケチってまで移動をしているわけで、「渡鹿野島で夜を楽しもう」なんて気持ちも、金銭的余裕もない。それでは何のために行くのかと言うと、この7月20日に、渡鹿野島で行われる【天王祭】が目当てだった。

この天王祭は、年に1度、渡鹿野島で行われる祭事らしい。普段は「男の盛り場」という雰囲気の島らしいが、この祭事は古くから行われている格のあるものだそうだ。渡鹿野島について、ほとんど情報が載せられていない志摩市観光協会のホームページにさえ、天王祭に関しては情報が載っている。以下のように説明されていた。

渡鹿野(わたかの)の夏を一層熱くする天王祭。古く素戔嗚尊(すさのおのみこと)を牛頭(こず)天王にあてて災厄(さいやく)を免れるために行われたとされている。尊(みこと)を祭神としてお祀りする八重垣(やえがき)神社に神輿が運ばれ神事が行われる。

引用元:渡鹿野(わたかの)天王祭/志摩市観光協会

まるでテンプレのような情報でしかなかったが、僕はこの天王祭に心が惹かれた。ウワサばかりが飛び交う不思議な島が、年に1度、人を集めて行う伝統的な祭事。この機会に、そんな不思議な島の持つ表情をこの目で確かめたくなったのだ。

渡鹿野島

観光協会に問い合わせると、渡鹿野島へ行く船は複数あるようだ。何やら、渡鹿野島行きの船が出る港は3か所あるそうで、自分が行きやすい港を選ぶ必要があった。

「磯部町的矢」、「磯部町三ケ所」、「阿児町国府」にそれぞれ渡船場があるとのこと。それぞれ鉄道駅から離れているので、駅からバスに乗り、場所によってはさらに歩く必要があるようだ。タクシーや車を使えばワケのない距離だが、青春18きっぷを使って三重まで行く僕。駅を降りれば公共交通機関に身を任せるしかない。しかし、地方へ行けば行くほど、その公共交通も充実しているとは言い難いのだ。

そんな中で僕は「磯部町的矢」の渡船場へ行くことに決めた。それが一番安く済みそうなうえ、交通機関の接続も比較的良かったからだ。

乗り換え案内サービスで調べたところ、静岡・三島駅から伊勢市まで所要約7時間。乗り換え回数は6回。その伊勢市からバスを2度乗り継ぎ、志摩スペイン村へ。その志摩スペイン村からさらにバスに乗り、「磯部町的矢」というところまで行く。そこから港まで20分ほど歩くと、渡鹿野島行きの船に乗れる……らしい。(ややこしい!)

僕は、出発前にあらかじめメモしておいた自作のルート案内を眺めつつ、さらに電車に揺られた。

賑わう伊勢神宮!スペイン村!僕はそれらを通過する

6時間強の乗車を経て伊勢市へ到着。夏、快晴、土曜日。

観光客らしき人をちらほらと見かける。駅から10分ほど歩き、伊勢神宮の外宮へ。この外宮から連絡バスに乗り3kmほど離れた内宮へ。そしてその内宮から、志摩方面(渡鹿野島方面)へ行くバスに乗る予定だ。

外宮に近づくにつれ、観光客と観光客向けのお店が増えてきた。街並みは純和風の風情ある雰囲気。そこへ、熟年夫婦、家族連れ、カップル、学生、外国人、女子旅、男子旅……。本当に老若男女、観光客の幅の広さに驚いてしまった。駅前こそやや閑散としていたが、伊勢神宮の外宮前ともなるとまさに大賑わい。みんな観光バスで訪れたのだろう。

そんな賑わいの中、僕は内宮へ行く連絡バスを待ちつつ、ブラブラする。伊勢神宮の参拝客は年間で800万人以上を軽く超すらしい。これだけの人の中で、渡鹿野島へ行く人はいるのだろうか。知っている人すらほとんどいないかも知れない。そんなことを考えていると、ようやくバスが来た。内宮に着くと、すぐに志摩方面のバスに乗り換える予定だ。

「伊勢神宮を訪れておきながら、伊勢に立ち寄ることなく別の目的地を目指すなんて、変なヤツだよなぁ……」

我ながら、心からそう思う。

JR、近鉄伊勢市駅

バスに揺られること1時間程度、伊勢神宮を出たバスは「志摩スペイン村」へ到着した。時刻は16時前。ここでまたバスに乗り換え、渡鹿野島行きの船が出る磯部町的矢(渡船場近く)方面を目指す。そのバスが来るのはおよそ40分後だ。

志摩スペイン村は懐かしい。10年以上前の小学生の頃、家族旅行で2度ほど訪れたことがある。

当時はここのジェットコースターが大好きで、フリーパス券で何回も何回も乗った覚えがある。大人になった今となっては、乗りたいと思えないほどジェットコースターが怖い。そんなことを考えていると、ちょうど視線の先から「キャーーー!」と楽しそうな声が聞こえてきた。ここもやはり、家族連れ、カップル、学生といった人たちが多い。

僕はどれにも属さない。スペイン村のトイレで用を済ませ、やってきたバスに乗り込んでスペイン村をあとにした。

「スペイン村を訪れておきながら、スペイン村に立ち寄ることなく別の目的地を目指すなんて、変なヤツだよなぁ……。」

やはり、心からそう思う。しかも、トイレで用だけ足して。





「天王祭」は18時30分開始。

さぁ、いよいよ渡鹿野島だ。



(つづく)

旅の記事、いろいろあります。

「これさえあれば、1日中JRの普通列車が乗り放題」という、青春18きっぷ。この夢のようなきっぷが導くスローな旅には、「ちょっとしたドラマ」が詰まっています。