天気の良い日の夜に空を眺めること。これが西表島でのライフワークだった。周辺に高い建物も、明るい建物も無いこの島では、星空が当然のように綺麗で、何かにつけて眺めたくなる。
けれど、西表島は何も空ばかりが綺麗じゃないらしい。地面を見ても、星空のようなホタルの光を見ることが出来ると聞き、僕はわくわくしていた。
ここは、一年中ホタルが見られる島
西表島には合計8種類のホタルが生息しているらしく、それぞれ旬のシーズンは違うそうだが、代わる代わる、一年を通してホタルを見ることが出来るらしい。例えば「春はこの場所でこの種類」「夏はこの場所でこの種類」といった感じ。都会育ちの僕は、ホタルと言えばてっきり初夏のイメージがあっただけに、そんな話がとても新鮮だった。
僕が宿で働き始めたばかりの4月中旬、先輩スタッフが僕とお客さんを連れて「ホタル観賞ツアー」を開催した。上原地区にある宿から車で走ること40分。車道から脇道にはずれ、場所もよくわからない暗がりの茂みまで案内してくれた。当然街灯はひとつもなく、繁みに棲む虫の鳴き声しか聞こえない静かな場所。懐中電灯が無ければとても歩ける感じじゃない。電波は圏外の携帯電話だったが、繁みを照らすために役立った。
恐らく一人だとここに行こうという発想も起こらないだろうし、仮に一人でここへ来たとしても、動物天国のこの島では、何に出会うかわかったもんじゃない。この繁みの中、うかつにハブに出会ったら冷静でいられる自信も無いだろう。
それでも、こうしてホタルを目指し、誰かと一緒にいるというのはとても心強かったし、何より当時21歳にして、小学生のような気持ちでワクワクしていた。
ところが、時間をかけてホタルを見に行ったにも関わらず、この繁みでのホタルのシーズンは終わっていたらしく、結局見ることは出来なかった。もし条件が揃っていたなら、発光の強いヤエヤマボタルが乱舞する様子が見られたらしい。
「ホタルって飛ばない奴もいるんですね」
こうして、初のホタルツアーは残念な結果に終わってしまったのだが、ホタルは意外なところであっさり出会うことになる。
ある日の夜、宿の仕事を終えた僕は、いつものように星でも眺めようかと外に出た。虫よけスプレーを振り(蚊が嫌いなので)、ベンチでボーっと座るという日課。ただ、この日は比較的涼しかったこともあり、長ズボンを穿き、上着を羽織っていたので、ちょっと散歩でもしようかという気になったのだ。
すると、宿から50mほど離れたところ、水場ではないけれど、雨が降ると湿気が残るような場所で、夜空と見間違うほど地面が煌々と光っているのだ。それがホタルだとはわかったが、僕が知っているホタルと違って舞うことはない。その場でじっと発光の強弱を繰り返すのみである。この日は空も綺麗だったが、この場所もまた“満天”だったのだ。
「いやーついにホタル見ましたよ。ホタルって飛ばない奴もいるんですね」
宿に帰るなり、先輩スタッフに告げると、それは「地ボタル」だと教えてくれた。なんとなくホタルは飛ぶものだと思っていた。しかし、西表島には飛ばずに光るホタルも結構多いらしい。さすが、ホタルが年中見られるという西表島だ。こんな調子で歩いてみると、意外とホタルは近くにいるのかもしれないな。
西表島は夜も楽しい。
西表島・上原地区
この記事の舞台は上原地区だが、ホタル自体は島中いたる所で見られる・・・かも?
まだまだ「島記事」あります。
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