tanoshimasan こと「僕」の生い立ちとか、
関西出身なのに離島にハマり始めた理由とか書いてます。
島のドミトリー宿とかで、お酒とか飲みながらこの話するとウケたりするんです。
良かったら読んでください。
今回は、北海道の天売島、焼尻島をめぐります。
ここで体感したのは島ならではの“一期一会”。
そこには、ちょっと濃~い出会いがありました。
好きなようにやろう。
ユースホステル部の合宿は2年半の在籍で、夏春夏春夏の計5回。つまり3年生の夏が最後の合宿になる。これを終えると、「さぁ、さっさと引退して就活しなさい!就活!」と、追い出されてしまうのだ!僕は合宿を重ねるたび、段々と離島にハマっていったが、ついに最後の夏がやってきた。どうせなら、過去に無いようなオリジナリティある合宿にしたい。今回も僕は企画する側に立ち、旅のプランを練ったのだ。
そんな僕だが、あることに気付いた。それは「国内には400以上もの有人島がある」ということである。気づくも何も、ただの事実なのだが、わがユースホステル部が行く離島と言えば、せいぜい屋久島、奄美大島・与論島、小笠原、程度だったのだ。(つまり、僕は過去4回ですべて行った)
そこで手に取ったのはSHIMADAS(※)である。日本全国あらゆる島々の情報が網羅されているこの本で、まずは国内の離島について情報収集をしようと思っていた。
(※)SHIMADAS
日本国内およそ6,000の離島情報が掲載された辞書のような本。
財団法人日本離島センター(当時)が編集。
天売島、焼尻島を見つけたのは、SHIMADASを開いてわずか5分のことだった。
北海道の島々から順に沖縄の島々まで掲載されているSHIMADAS。だが、最初の数ページめくっただけで、僕は早速手を止めてしまった。最初に来たのが最北の島と言われる礼文島、そしてその隣の利尻島・・・、この2島は観光地としても有名だろう。だが、それ以南の島々についてはもうほとんど知らない。次に出てきたのが、天売島(てうりとう)、焼尻島(やぎしりとう)だったのだ。
さらにページを進めても良かったのだが、やはり最初に見たものほど印象に残ってしまうもので、ついついどんな島か調べ込んでしまった。そうこうしているうちに、「あれ?意外と面白そう!」「礼文、利尻とも近いし、合計4島で島めぐりなんてどうか」「ちょうどお祭りもあるみたいだ」・・・と、一人でワクワクし始めてしまい、気づけば10泊に及ぶ合宿プランが完成してしまっていた。
もちろん、北海道の島々に限らず、行き先として他にもたくさんの選択肢があったが、ほんの気まぐれと偶然が重なり、トントン拍子で予定が立ってしまった。今思えば、島に呼ばれていたのかな?とすら感じる。
こうして、天売島、焼尻島、礼文島、利尻島の4島をめぐるという合宿ができあがった。元々こだわりがあったわけでもなく、本当に「SHIMADASの最初ほうにこの4島が載っていたから」というだけのことである。
待っていたのは無名の炭火海鮮!
最初に訪れた天売島からすでにインパクトが強かった!
それが、その日の昼食である。天売島は渡り鳥が多く訪れる「海鳥の島」として有名で、バードウォッチャーのメッカ的存在。しかし、そんな海鳥以上に強烈だったのが天売島での昼食だった。島に1軒しかないその食堂は、炭火海鮮「番屋」という名前のお店だ。
なにせ、ここでの食事が強烈に旨かったのだ!メニューのほとんどが、島でとれた魚介類を炭火で炙るだけというシンプルさである。
「北海道と言えば魚介類が美味しい」と言うイメージがあったのだが、天売島は道内でも屈指のウニの産地だそうで、年に一度、島をあげて「ウニ祭り」というイベントを開催するほどだとか。この名物のウニを筆頭に、ホタテもイカも、その日とれたものをそのまま炭火で炙るだけ。これだけのことがなぜこんなに旨いのだろうか。ウニは殻を破って食べる。ホタテは炙るうちに貝殻が開き、沸騰している汁からすする。炭火独特のほのかな香りもたまらない。
この炭火海鮮番屋は島に1軒しかない食堂だった。それだけに過度な期待はしていなかったが、想像以上の当たりクジである。聞けば、魚介類を炭火で炙って食べるお店は、道内でもそうそう無いらしい。だからこそ、名前も知らなかった島の食堂は、都会の有名店よりもよっぽど贅沢に思えてならなかった。強烈な先制パンチを食らった気分である。
小さな島で育まれる高級食材!
次に訪れたのは焼尻島。天売島からわずか4km離れただけの島である。この焼尻島がまた面白かった。なんてったって、天売島からわずか4kmしか離れていないのにも関わらず、その天売島とは見どころもグルメも違っていたからだ。
その焼尻島の代表格が、サフォーク種という羊だった。このサフォーク種の羊肉は、銀座などの高級フレンチ料理店に出荷されるほどの逸品らしい。島内にはめん羊牧場があり、牧場風景から楽しめるようになっている。
もちろん、この島ではそのめん羊が食べられる。食べられるのは、やはり島に2軒しかない食堂のうちの1軒「島っ子食堂」だった。食堂の中でなく、食堂の外にあるバーベキューセットを使っての焼肉ランチ。海風がそよぐ港の前は、銀座のフレンチ店のような様相とは無縁かも知れない。けれど、「その島でとれたものをその島で食べる」というのは何よりも新鮮だった。
羊肉独特の臭みもなく、柔らかい肉から旨味が溢れだす。焼肉の要領で焼き、塩こしょうを振るだけのシンプルな味付けなのに、それがなぜここまで旨いのか。「銀座で食べると1万円以上はするよ」なんて言われる量を、2,000円というご当地価格で食べていることにも、なんだか感動してしまった。
ちょっとした気まぐれと関心が生んだ出会い
名前も見どころも知らないような島々だった。それでも、調べてみると面白いもので、色々と見えてくる。当然その島にはその島の文化があるのだが、例えば天売島の魚介類炭火焼のように、例えば焼尻島のめん羊の成育のように、その狭い島内だけでしか見ることができない文化だってあるのだ。
一方、僕にとって、この天売島、焼尻島を訪れたのは、ちょっとした気まぐれと関心が発端である。けれど、そんな気まぐれと関心がなければ、一生出会うことも知ることもなかった気さえするのだ。僕たちは、心底美味いと思える食事に出会い、満足して島を出た。適当に買った宝くじがたまたま大当たりだったと言えば言い過ぎだろうか。それに近い感覚だったと思う。もちろん料理以外も楽しめたのは言うまでもないが、それだけ食事が印象に残ったのだ。
400以上の島々が収録されているSHIMADAS。その最初の数ページに掲載されている島の料理がこんなに旨いのだ。他の島々だってほとんど名前すら知らない。けれど、もし全部めぐったとして、どれだけ感動することだろうか。
料理との出会いひとつでここまで感動している僕もなかなかオメデタイ人間だが、いきなりそんな体験をしてしまった僕は、次に訪れる島にどんな出会いが潜んでいるか。それが楽しみで仕方なくなっていた。
天売島、焼尻島をあとにした僕らはそのまま礼文島、利尻島を目指した。
(つづく)
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