息子へ。被災地からの手紙(2013年4月16日)

2013年4月16日 宮城県石巻市狐崎浜の昼食

漁師の管野さんに船に乗せてもらった。船外機の付いたボートとディーゼル漁船。牡蠣の稚貝を育てる様子と養殖中の牡蠣棚のメンテナンスを実際に見せてもらうのが目的。

だって、海の食べ物がどうやって獲られたり育てられたりしているのか、ほとんど知らなかったから。

牡蠣養殖が年間通しての仕事だということを知ったのも、先月のビーチクリーンの時。出荷される時期以外は、牡蠣は海の中で勝手に育っているのかと思っていた。

去年の7月に種が付いたという稚貝は、素人目には「牡蠣はどこ?!」と思うほど小さくはかなげだった。そんな小さな稚貝にストレスを与えて丈夫な貝を残す、なんて話を聞いたときはびっくりした。

養殖棚に吊るされた育ち始めた牡蠣のメンテナンスもたいへんだ。養殖施設を浮かべるための浮き樽の数をしょっちゅう調整しなければならない。少々悪天候でも、いや悪天候だからこそ、少し無理してでも作業をしなければならない時もあるのだという。

牡蠣は収穫される時期よりも、市場に出回ってない時期の方がたいへんな作業が多いみたいだ。

そんなことを教えてくれながら作業を続ける管野さん。ある時、ひとつの浮き樽を調整するときに、鎌を取り出して樽に着いた海藻を切り取った。

「ワカメ。これ、お昼に食べよう」とニカッと笑う。

作業が終わりに近づいた頃、管野さんはビーチクリーンを行った浜の沖に近づいて、牡蠣用とは明らかに違う、小さめの浮きで吊るされた養殖棚を持ち上げた。

びっくり!
ロープの先に信じられないくらい大きく育ったワカメがあった。

「こっちは去年仕込んだ養殖モノのワカメ。育ち過ぎたけどメカブはまだ食べられる。お昼はメカブ丼だよ」とまたニカッ。

かくして午前中の作業を終えて上陸して、管野さんのお母さんに教えてもらいながらメカブを下ごしらえして、おいしい美味しいメカブ丼をいただきました。

海の中で勝手に育っていたり、自分たちで育てたりしたものを取ってきて、新鮮そのものの海の幸でお昼ご飯を作って食べる。

その生活の豊かさに感動した。

「これはずっと前にとったものだけどね」と港の生簀カゴに入れていた貝もお刺身や汁物にしてもらったり、「これは頂きものなんだ」というメロウドのシラスが食卓に並んだり。

なんか、とってもいいんだよね。

仕事をした後、お昼の支度も自分たちでやっちゃうというところも、とてもいい。

そうそう、育ち過ぎて固くなったメカブはタンサン(重曹)を入れて煮ると柔らかく、鮮やかな緑色になるんだよ。管野さんのお母さんがエプロンのポッケから重曹の袋を取り出したのも、びっくりだった。