息子へ。被災地からの手紙(2013年3月12日)

2013年3月12日  宮城県石巻市

石巻人たちの「言葉へのこだわり」から見えてくる生きざま。

石巻で際立つ活動をしている人から、言葉の使い方について教わることがよくある。

たとえば「できるだけやる」と「できることをやる」の違い、わかるかな。これは「がんばろう!石巻」の看板を立てた黒澤健一さんに教わったこと。

できるだけやる、だと達成度98%だろうと10%だろうが、「できるだけやったけどできなかった」と言い訳できる。

これに対してできることをやる、は言い訳がきかない。やり始めた以上、最後までなし遂げなければならない。黒澤さんは、震災で家や仕事を失った後、「できることを全部やる」と決意したのだそうだ。

できることを全部やり遂げる。

心をどう括るかという覚悟が、言葉のちょっとした違いにの中に込められている。ちょっとした違いかもしれないが、許すことができないくらい大きな違い。

「田舎町」の石巻で、仙台に負けないショップを運営してきた鈴木孝宗さんからは、「チャンス」という言葉の使い方を教わった。

鈴木さんがその言葉を使ったのは、リアルな店舗をどこに置くかという話でのこと。ある商店街にお店を出すとした時、そこに「チャンス」があるかどうかで判断する。チャンスがなければ出ていくだけ。

ふつうならチャンスの代わりに「メリット」という言葉を使いそうなところだ。でも鈴木さんはメリットとは言わず、チャンスという言葉を使い続けた。メリットではなくて、チャンスじゃなければならない、心を括るポイントとなる言葉だったのだ。

言うまでもなく、そこにいるだけで手に入る利益=メリットなんかではなく、業績を伸ばしたり、可能性を広げたり、新たなつながりを実現していくためのチャンス。こちらから働きかけることで、何かを変化させていくチャンス。積極的な働きかけを前提として、ひとりでは実現できないことがどんどん展開していくような「チャンスがある場所」かどうかが判断基準だというのだ。

ちょっとした言葉の差異の隙間に、生きていく上のこだわりが込められている。その人たちにとっては、ちょっとしたことなんかではない、大きな違い。大切なこだわりの上に、いまを生きる人間としての生きざまが築かれていく。震災から2年。2013年3月という、変化を続ける時間の流れの中で。