数年前、僕はラブホテルと呼ばれるレジャー施設で清掃のバイトをしていました。ラブホの職場環境は「面白いと思えば面白い、特殊と思えば特殊、普通と思えば普通」という何とも不思議な感覚があります。このシリーズ?では謎の多いラブホテルの舞台裏に少しずつ迫っていきたいと思います(脇汗)。
ラブホは微妙に目立たない場所にある
ラブホテルと言えば・・・秘境!という訳ではありませんが、地方にあるラブホは高速道路を降りたインターチェンジの傍らにあったり、山道を進んだ奥深くにポツリポツリと点在していたり、電車が走る河原の脇道にあったり、目立つような目立たないような微妙な場所にあることが多いです。
僕がバイトしていたホテルは正に秘境中の秘境というか、高速道路を降りた先の山道をずっと登った奥の細道にひっそりと建っていました。山林地帯のど真ん中にあるので、野生の動物が多く生息しています。周囲の林を鹿がピョンピョン跳ねていたり、ホテルの花壇をモグラが穴を掘って荒らしたり、半分くらいムツゴロウ王国に近い状態でした。
野犬がホテルの生ゴミを食い荒らす
個人的に怖かったのは野犬がホテルに出没して生ゴミを食い散らかすことでした。首輪の跡があったので、捨てられた飼犬が野生化したのだと思います。体はやせ細って毛並みはボロボロ・・・ろっ骨まで見える状態でした。これを見て気の毒に思ったY主任が、野犬にエサを与えたところ、そのままホテル居ついてしまったのです。
犬は従業員の通路から作業場に入ってくると、ポリバケツの生ゴミを食いあさり、お客さんが食べ残したご飯を食い荒らしました。これは迷惑だという話になり、「追っ払え!」という命令が下ります。最初は追いかけるだけで逃げたものの、慣れてくると逃げなくなって吠えてきます。
みんな追い払うのが面倒になり、「あの犬、捨てられて可愛そうだなぁ・・・」と同情するようになりました。最初にエサを与えたY主任は責任を感じていたらしく、どうにかにして犬を追い払おうと試行錯誤していました。最終的にはサッカーボールを持ち出して、犬をドリブルで駐車場に追い詰めると、出口でシュートをぶつけて追い払うことに成功しました。なんか、可愛そうでした・・・ 。
熱帯魚が人工ふ化に成功する
インテリアの一部として10号室に熱帯魚が飼育されていました。ネオンテトラが10数匹とエンゼルフィッシュの雄と雌が2匹います。エンゼルフィッシュは人工ふ化に成功し、子供が1度に数十匹生まれました。しかし、父親のエンゼルフィッシュは凶暴で、生まれたばかりの子供を片っ端から食べていました。最終的に生き残った子供はわずか2匹です。
やがて、大きく成長した息子を見届けるようにして、父親のエンゼルフィッシュは他界します。「よく生き残ったなぁ!」とみんなで感動していました。そんなある日、Y主任から休憩室に1本の電話が入りました。「空き部屋のブレーカーを落としてください」という通達です。節電対策のために空き部屋のブレーカーを落としていきます。
1時間後・・・。真冬の夜に静けさが漂りました・・・。「あっ!」と女性スタッフのNさんが大きな声をあげました。10号室のブレーカーが落ちていることに気がついたのです。慌てて10号室に入って部屋の電気を付けました。熱帯魚の水槽は真冬の気候で水温が凍りつき、エンゼルフィッシュとネオンテトラがプカプカと浮いています。
水槽のヒーターをつけて数分後・・・凍死しかけた熱帯魚が復活して泳ぎ始めました。九死に一生を得た熱帯魚を見てみんなで感動しました。でも、その1週間後・・・。Y主任が10号室のブレーカーを誤って落として熱帯魚は全滅しました・・・。僕は唖然としました。
ラブホに救われた生命達
ある日、12号室で清掃していると、突然2羽のスズメが部屋に飛び込んできました。バタバタと羽音を立てながらピーピー鳴いて天井に頭をぶつけます。「このままでは死んでしまう!」という事態になり、スズメを捕えにいきますが、素手では捕まりません。フロントに電話すると、Y主任が虫取り網を持ってきてスズメの捕獲に成功します。フロントには何でもあるんだな~と感心しました。
真冬のある日、ホテルが経営している弁当屋の軒先で野良猫が子猫を生んで逃げました。「このままでは子猫が凍死してしまう!」ということになり、子猫の保護に向かいました。生まれたばかりの子猫が10匹くらいニャーニャーと鳴いています。やはり、素手だと逃げられてしまうので、Y主任が必殺の虫取り網をフロントから持ってきて子猫を素早く捕獲!
スタッフの間で子猫を誰が引き取るかという話し合いになりました。翌日、段ボールに詰め込まれた子猫は社長の奥さんの手によって保健所に連れて行かれました。まぁ、当然の話ですね・・・。