サッカーに情熱を燃やすホテルマン 【素敵なラブホ事情10】

 数年前、僕はラブホテルと呼ばれるレジャー施設で清掃のバイトをしていました。ラブホの職場環境は「面白いと思えば面白い、特殊と思えば特殊、普通と思えば普通」という何とも不思議な感覚があります。このシリーズ?では謎の多いラブホテルの舞台裏に少しずつ迫っていきたいと思います(脇汗)。 

社員さんは1日15時間労働で気分転換が難しい

僕が働いていたホテルの社員の勤務時間はとにかく長い!1日の平均的な労働時間が15時間で、定時で上がれても13時間というハードスケジュールでした。ぶっちぎりの労働基準法違反なわけですが、13時間ずっと働いているわけでもなく、そのうち3時間は仮眠を取ったりする休憩時間があります。

社員さんはホテルの敷地内にある社宅に住んでいる人が多く、週1日の休日以外は外出禁止なので基本的にホテルにこもっていることになります。Y主任という30代の男性はサッカーがとても好きで、休憩中にいつもサッカー雑誌を読んでいる人でした。僕もサッカーが好きだったので仲良くなり、2人でサッカーの話ばかりしていました。

サッカー好きのY主任を誘って社会人クラブに練習参加

Y主任は、「サッカーやりたい!サッカーやりたいな~」ともらすことが多く、監禁生活のフラストレーションが溜まっているようでした。そこで、僕が当時入団していた社会人クラブのサッカー練習に誘ったところ、「是非、参加したい!」ということで意気投合。金曜の夜、Y主任はこっそりホテルを抜け出すと、僕と一緒に社会人クラブでサッカーをするようになりました。

Y主任は20代まで本気でプロサッカー選手を目指しており、Jリーグ傘下の社会人クラブでプレーした経験を持つ人です。練習初日から早くもチームに溶け込んだY主任は、紅白戦にフォワードで出場するとファインゴールを連発する活躍で華々しいデビューを飾りました。

練習だけじゃ物足りない!リーグ戦に出場する!

紅白戦でストライカーの本領を発揮したY主任を監督も絶賛。「リーグ戦に出場してみないか?」というまさかの展開になりました。金曜の夜にホテルを脱走してサッカーをしていたY主任は、水曜の夜もリーグ戦に参戦する形で職場を放棄するようになりました。Y主任は3トップの一角として右ウイングで先発すると、華麗なボールタッチとピンポイントクロスでアシストを連発!

チームメイトの信頼を得たY主任はレギュラーポジションを獲得し、僕自身も右サイドバックとしてレギュラーを務めました。Y主任と2人で先発した試合は負けることがなく、右サイドのラブホットラインはチームに不敗神話をもたらしました。トルシエジャパンで不敗神話を作った柳沢と鈴木みたいな感じです。

サッカーしてることが社長にバレて干される・・・

サッカーが好きで好きで堪らないY主任は、徐々に行動がエスカレートしていきます。フロントにサッカーボールを持ちだして、「昨日の試合でミスキックしてしまった・・・」とぼやいてインサイドキックの練習をする始末。そして、ホワイトボートにフォーメーション図を描いて、「次はこのタイミングでオーバーラップして欲しい」と戦術的な提案までしてきます。

話が盛り上がると朝方までサッカー談義をすることもありました。しかし、その幸せも長くは続きません・・・。金曜と水曜の夜に無断で外出していたことが社長にバレてしまい、Y主任は大目玉を食らって謹慎処分を受けました。フロントの片隅に置いてあったサッカーボールも処分され、サッカーで華やいだ黄金時代は幕を閉じました。

その後、Y主任はホテルの駐車場でこっそりボールを蹴ったり、フロントで日本代表のユニフォームを着て電話番をしていました。サッカーに対する情熱は誰にも負けないホテルマンです。僕はホテルマンとしてもサッカー選手としてもY主任を尊敬しています。