朝の掃除を終えるとだいたいお昼の12時。僕が働いていた西表島の宿では、スタッフ同士「いいとも」を見ながら昼食をとり、その後は2~3時間の休憩に入る。
とは言え、休憩時間も電話番などあり、遊びまわるということは難しい。パソコンもないし、携帯も電波が悪い。本もあまり持ってきていない。となると案外退屈で、「どうしたもんか」というところだ。
旬なニュースはもちろん、求人、出生、地域情報まで・・・。これがなかなか面白い!
しかし、そんな僕の退屈をしのいでくれたのが新聞。西表島を含む、八重山諸島で圧倒的シェアを誇る「八重山毎日新聞」だった。石垣島で刷られている新聞なので、海を隔てた西表島では朝一番に新聞が届くことはない。だいたいお昼前、島の配達員が戸を開けて玄関に置いていくのだ。
退屈も手伝って、新聞は隅から隅まで読んでいたが、一般紙に比べてかなり薄い新聞ながら、これがなかなか面白い。国内を揺るがすニュースはもちろんだが、八重山にまつわる情報量がハンパではなかった。 当時(2008年)で言えば、本土と沖縄本島、八重山諸島、台湾を結んでいた旅客船「クルーズフェリー飛龍」が経営破たんしたという、八重山諸島を震撼させたニュースが連日一面だった。NHKの全国ニュースでは1分程度の扱いだったが、僕自身、この船を利用する予定だったので、八重山毎日新聞の存在が非常にありがたく、日々の動向にくぎ付けだった。(関連ページ:石垣島・台湾航路、有村産業の思い出)
そのほか、求人欄も都会のそれとは違って興味深かった。例えば、中国語や英語の話せる観光ガイドの募集や、琉装モデルといった民族衣装をまとったモデルをホテルが募集。時給650円~という条件を見て、「良い条件だなー」なんて思ったり。(当時日当2000円だった) かと思えば、「ご近所の集落で子供が生まれた」なんて情報も(「おくやみ」もあった)。そのほか、島の学校で入学式だ運動会だとイベントが行われるたび、それがニュースになるから親近感がものすごい。「××」このあたりも、都会とは違った文化、一般紙とは違った内容で面白いなぁとつい読みふけっていた。実際僕はご近所の赤ちゃんに対し、初対面にもかかわらず名前を覚えていて、驚かれたことも。
新聞という要素はもちろんだが、地域密着の何でも情報誌という印象のほうが強いかも知れない。たとえば、集落の公民館で三線の勉強会があるだとか、市役所で●●の説明会があるだとか、島でのイベント情報はすべて新聞。島々のチーム対抗で行われたハンドボール大会の結果はイチローの活躍よりも大きな扱いだった。 少し面白かったのは、「石垣島で活動していたミュージシャンが、朝日新聞で取り上げられた」という記事。新聞に載ったことが新聞に載るというなんだか不思議な現象も。しかし、こういう話題は意外と多く、それだけ「おらが村※」の意識が強いことの表れだったのだろう。
※ 八重山の方言だと「ばーぬ島」?
八重山毎日新聞の求人広告。「三線演奏者」の求人があるあたり、さすが沖縄!
新聞に捨てるとこなし!
僕は読むだけでも楽しんでいたが、実は仕事中も様々なところでこの新聞が大活躍。ゴミの収集日が気になれば新聞を広げ、宿のオーナーに「船の時間教えて」と聞かれれば新聞を広げ、診療所の診察時間を聞かれても新聞を広げた。都会では、別に新聞に載せなくても・・・と思える内容だが、何か気になったとき、新聞ひとつで解決するのはかなり心強い。これは体験してみないと分からないだろう。 また、活躍の場は読み物に止まらない。読み終わった新聞は宿の食事の仕込みにも重宝した。まず、調理台に新聞1枚。その上にまな板を置いて作業をすることで、調理台はあまり汚れない。そして、余った野菜は新聞でくるんで冷蔵庫へ。これはラップに包むより良いらしい。揚げ物をしたときは油を吸収させるのに何かと役立った。また、段ボールに荷物を詰め込む時はクッションにも化けてくれた。うーん、素晴らしい。まさに「新聞に捨てるとこなし!」である。
このように、八重山諸島で生活するには、もはや欠かせないツールだった八重山毎日新聞。一般紙では届かないトコロに手が届く、素敵な新聞だったのだ。
ちなみに、僕がこの記事を作成している今日(2013年1月21日)付の八重山毎日新聞。こんな話題が目を引いた。
農村青年の嫁さん不足対策のためJA八重山支店が来月23、24日に「婚活」を行うという。
(中略)
JAの婚活は25人の独身女性を募集。初日は市内ホテルで顔合わせの食事会、翌日牛まつりの黒島でデートが行われる。テレビの婚活のように積極的な女性が多数なら、カップル誕生の確率は高い。とはいえ黙っていては女性も注目してくれない。ここは一念発起で積極的に自己アピールしよう。
なんと、八重山の独身男性に婚活のアドバイスを送っていた。
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