おばあとピーチパインでゆんたく(西表島)【旅レポ】

tanoshimasan

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おばあとピーチパインでゆんたく

 西表島のとある宿に住み込みで働いていた。滞在日数に直せば2ヶ月半程度だったが、ゴールデンウィークをまたいで忙しかったこともあり、西表島のことはあまり詳しくならないまま、月日だけが過ぎていた。もっとも、遊び半分で働いているつもりは無かったが、どうせなら、訪れたお客さんと旅の話を活発に交わしたいと思っていたのだ。 また、宿の主が厳しい人でよく叱られていた。他の宿や今までのアルバイトでだって、そこまで叱られることがなかったので、当時大学生(休学中)の私にはそれなりにショックが大きかったと思う。西表島を含めて色々な場所を訪れたが、一番落ち込んでいた時期かも知れない。小休憩の時は誰もいない部屋に入り、もっぱらメールやmixiで友人と連絡していた。言葉で弱音を吐くことはなかったが、気持ちが弱っていたんだと今は思う。そしてこういう島に滞在していようが、有人と「つながる」ことができる、そんなツールに感謝していた。

 そういった日々を過ごす中で、当時は唯一の癒しの場所だったのが、宿から15分程度の距離の無人販売所だった。無人販売所と言うと、質素な木のつくりの小さな建物(?)で、その棚に野菜や果物が並んでいるのが相場だ。何もないことも多い。大体がワンコインで買え、設置されている料金箱にお金を落とす。ところがそこの無人販売所は何故か豪華。アクセサリー、漂白した貝殻やサンゴなどが置いてあったり、冷凍室付きの冷蔵庫もあった。

 近くのスーパーで、内地の3分の1程度の厚み、ペラペラのスポーツ新聞が50円で売られているので、それを購入。そのあと無人販売所で、カットされて冷蔵室でよく冷やされたピーチパインを購入。ピーチパインをほおばりながら、船客待合所の日蔭でスポーツ新聞を読むというのが日課になっていた。 

 しかしある日、スポーツ新聞が売り切れていたのか何かあったのか。残念ながら買うことが出来なかった。仕方がないのでピーチパインを買いに行くと、無人販売所で作業をしているおばあがいた。「いらっしゃいませ」

どうも、と軽く会釈し、ピーチパインを取り出そうとした。あれ?「あーごめんねー。ピーチパイン今持ってくるから待っててねー。」

なんで今日はどっちも品切れなんだろうな・・・と思ったが、おばあは切って持ってきてくれた。「にぃにはどちらから?」

「兵庫県です。」 「へーまた遠いところからよく来たねー。どこかで働いてるの?」

「あ、はい。○○○○○っていう宿で。」 「良く頑張ってるねー。」

「いや・・・」 お陰様で宿は大繁盛だった。最大35人程度泊まれる宿ながら、ゴールデンウィークを挟んで25日間ほど常に30人近くのお客さんで賑わっていた。その間もよく叱られていたので、「頑張ってるね」と言われても、頑張れているのか自信が無かった。逆に言うと、仕事に自信が無い中で気楽に「頑張ってるね」と言われたのが凄く嬉しかった。

「ピーチパインは美味しいかい?」 「はぁ、大好きで毎日ここで1~2本は買ってます。」

「そうねー。そしたらこれもどうぞ。」 「良いんですか?」

「なんくるない。にぃにが好きなら食べたらいいさ。」 もう1本頂いた。なんとなく知っていた知識だが、パイナップルは育てるのが割と手間である。小ぶりで通常よりちょっと甘めのピーチパインは、西表を含む八重山諸島の名産だ。ネット通販なら3玉で4,000円近くしたりするが、おそらく西表島だと1玉安ければ50円、高くても200円程度。カットが面倒なのでカットされた状態で売られることも多いが、それでもちょっと割高の1本100円といった程度。価格差が島と内地とで非常に激しかったりする。そんなことで儲かるのかと考えたこともあったが、野暮な話かもしれない。おばあは平気で分けてくれた。

 その日以来、なんとなくスポーツ新聞を買うのをやめ、無人販売所でのんびりするようになった。少し人と話しただけで、気分がかなり違ったからかも知れない。販売所のおばあとは会ったり会わなかったりだったが、ここでのんびりしていると、島のおばあたちによく声を掛けられるようになった。

「暑いですねー。」 「いやー、今日はそうでもないさー」

「またにぃにそこで食べてるの?」 「これからどこに行くんですか?」 

他愛のない話しかしてないが、この時間が贅沢に思えた。 正直に言うと、おばあとは沢山知り合ったが、名前は誰も知らなかった。逆に聞かれることもなかった。それでも無人販売所に居れば、会ってゆんたくが始まる。自分はいつもピーチパインを片手に、どこか適当に腰を掛けると、時間も忘れたゆんたく。いつの間にか、携帯電話も持たなくなった。あぁ、なるほど。こういう「つながり」もあるのか。帰り際に頂いたピーチパインを食べながら、西表島を離れていく船で、ふとそんな「気づき」を得た。

 
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