地ボタルってなんですか?
地ボタルを見に行こうと言う。西表島で同じ宿に泊まっていた常連のお客さんが誘ってきたのだ。「地ボタル」なんて聞いたことがない。地ボタルってなんですか?「こっちの飛ばないホタルだよ」
へぇ、こっちには飛ばないホタルがいるのか。当時無知で「飛ばないホタル」という存在を知らなかった僕は、それだけで興味を持ってしまった。ところが「地ボタル」で検索してもコレといった言葉がヒットしない。なんなのだろうか。
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「とは言え、今から見に行くのだから」とあまり深く考えずに常連のお客さんについて行った。西表島と言えばホタルがそれなりに有名なのは知っている。特に4~5月に見られるヤエヤマボタルの乱舞は「幻想的」の一言に尽きる。ただ、それはあくまで飛ぶホタルの話。
飛ぶホタル=ヤエヤマボタルを見に行くときは、上原集落の宿から車を40分「いるもて荘」ほど走らせていた。てっきり地ボタルもそういう穴場スポットがあると思っていたが、車に乗ろうとしたところで「車じゃないよ」との声。「へ?」と思って立ちどまると、全く違う方向を指さす。それは宿の裏にただただ雑草が広がるだけの広場だった。どうも近くにあるようで3分ほど歩いた。 しかし目を凝らして地面を探したが、それっぽいものは見つからない。そもそもホタルにとって必須と言える水場すら見当たらない。
「光も薄いからよく見といてね。」なんとも頼りない。あたりがさらに暗くなると、街灯ひとつ見当たらない周辺は当然真っ暗だ。ところが、やはりホタルが光る様子はない。それよりも、今はたくましい西表の大自然の中にいるわけだ。虫がフィーンと音を立てて飛んでいるのが聴こえる。大丈夫だとは思うがハブとか出てこないだろうか。心が穏やかじゃなくなる。
◆◆◆
しかし待てど暮らせどホタルは光らなかった。ホタルがいるのかも怪しい。僕を誘ったお客さんも「あれー、おかしいなぁ」と言い始めている。結局、ホタルが光ることは無かった。 帰路はテンションが下がっていた。「地ボタルが見れるよ」と言って僕を誘った手前か、常連のおじさんは大人しくなってしまったのだ。僕もまた気を遣って大人しくしていた。しかしさすがにばつが悪かったのだろうか。謝られてしまった。
「わるかったねぇ。」 「いえいえ、でもそう言えばなんで地ボタルっていうんですか?」
「そりゃあ地面に這うように生活してるからだよ。」 「飛ばないんですねぇ」
「意外とそういうホタル多いんだよ」 地面をサクサク歩く音と、僕等の話声だけがひびく。その時―――
ズボッ。 「!!?」
僕は足をぬかるみにとられて、ズベベッとコケてしまった。すると・・・、 「あっ!!」
目の先にやわらかな光。強弱はあるものの一定のリズムで輝いている。これが地ボタル?シャツが破れ、腕を擦りむき、泥にまみれた。ただ、ホタルの目線になったことで、ようやく地ボタルが見えた。ホタルはとことん綺麗だったが、僕は土まみれで宿に戻った。
■ 西表島とホタル西表島には8種類のホタルが生息している(と、言われている)。中でも、石垣島と西表島と小浜島でのみ生息する「イリオモテボタル」や、石垣島と西表島でのみ生息する「ヤエヤマボタル」は有名。ホタルと言えば夏のイメージが強いが、西表島では冬に発光するホタルもいるため、西表島では通年何かしらのホタルが見れる。ちなみに、この記事の時期は5月だが、この地ボタルの種類は不明。
また、筆者の周りでは飛ばないホタルを「地ボタル」と呼んでいたものの、あまり一般的な呼び方ではないらしく、他の地域では「地ボタル」と呼んでも通じないことがあった。