東日本大震災・復興支援リポート「震災の後、この子もさみしいのよ」

「とまれ」のペイントの先にあるものは?

鮭が上る川にかかっていた代ノ下橋

2011年3月11日まで、ここには木の橋が掛かっていました。

何度も補修や解体修理を繰り返して守られてきた、味わい深い木の橋です。

重量制限が0.3トン、つまりたったの300キロという日本一軽い重量制限の橋としても有名な橋でした。

橋があるのはいわき市久之浜。名前は代ノ下橋と言います。

橋の下を流れる大久川には、秋になると鮭が産卵のために遡上してきます。棒で突いて獲れるほどたくさんの鮭が帰ってくる場所だったそうです。

そう言えば、立ち入りが制限されている浪江町を流れる請戸川(うけどがわ)も、多くの鮭が遡上することで有名ですね。10月中旬から11月中旬にかけては鮭ヤナ場が設けられて、町は鮭まつりで賑わっていました。

福島の浜通りで、鮭は秋の恵みだったのです。

流された木橋のそばで散歩中の奥さんが言ったこと

橋の向こう側に何があるかというと・・・

代ノ下橋は渡ることができないので、すぐ近くの国道の橋を回って行ってみました。ちょうど橋を渡った先には、大きな空き地が広がっています。かつて工場があった跡地で、行政ではここに復興公営住宅を建設する計画を進めています。

浸水は30センチほどだったということですが、津波被害を受けた場所が公営住宅になることに、地元では複雑な思いもあるそうです。

代ノ下橋の橋脚と公営住宅用地の空き地を振り返り振り返りして見比べていたら、犬のお散歩中の女性がやってきて、すれ違いざま、ワンちゃんにじゃれつかれてしまいました。

奥さんはワンちゃんのリードを引っ張りながら、

「ごめんなさいね。震災の後いつもこうなの。この子もさみしいのよ」

と口早に言うと、軽く会釈をして立ち去りました。

代ノ下橋の傾いた橋脚と、いつも誰かを探してしまわずにはいられないワンちゃん。そして浸水した場所で進む公営住宅の計画。久之浜の広い空の下で、何をどう考えたらいいのか分からなくなってしまいました。