【旅レポ】野尻湖・琵琶島めぐり、15分1本勝負!

国内では珍しい湖上の離島、琵琶島

片道8時間・・・やっと着いた。

 長野県の北部、斑尾山と黒姫山の合間に位置する野尻湖。その野尻湖をのんびりと移動する大型遊覧船「雅」の上で、僕はひとりあれこれ悩んでいた。

 野尻湖には、琵琶島という湖上の離島がある。島と言えば、海の外にあるものと思われがちだが、定義上、陸と離れていれば、そこが陸地に隠れた湖の上であっても、「離島」が成立するのだ。湖上の離島というのは世界的にはそう珍しいものではない。しかし、日本では少なく、『SHIMADAS -シマダス-』※(島の百科事典、国内の全ての有人島や無人ながらに話題多き島など、あらゆる島々の情報が網羅されている)に掲載されているものでも、琵琶湖に3島、そして野尻湖に浮かぶ琵琶島しかない。 今まで散々海を渡って島を巡ったが、今回訪れる琵琶島は根本的に性質が違う。自宅の静岡から山の中を電車で進み7時間、長野駅からレンタカーを借りさらに1時間、そうしてたどり着いた遊覧船に乗り、琵琶島を目指しているのだ。しかも、あくまで乗っているのは定期船ではなく遊覧船だ。野尻湖を20分かけて周遊し琵琶島へ、琵琶島では15分間滞在し、5分かけて船着き場に戻る。40分間のツアーである。つまり、ようやく訪れた琵琶島を15分間で見て回り、戻らなくてはならないのだ。

 15分で何ができるか。無論、面積は0.02㎢と非常に小さい島ではある。それでも人と話していたらあっと言う間、いくつかある島の見どころの何かひとつに注目してもあっと言う間、かと言ってひとつ船を見送り、1時間後の次の遊覧船を待つには何もなさすぎるし、個人的な都合ではあるが、そこまでの時間的余裕もない。  ちなみに、遊覧船の同乗者は年配の方々がほとんど。観光バスで野尻湖に訪れ、のんびり景色を楽しんでいるせいか、僕のように殺気立つはずもない。熟年カップルはタイタニックのお馴染みのポーズを決め込んで遊んでいた。

 しかし、若い乗客は自分以外にはほぼ皆無だ。野尻湖に若い人が来ないワケではない。むしろ湖の上を見渡せば、水上スキーにウェイクボードにカヌー・・・。マリンスポーツならぬレイクスポーツか。特に水上スキーではロン毛の兄ちゃんがアクロバティックな技を決めて、取り巻きから喝采を浴びている。とにかく、湖上の遊び場として、野尻湖が人気を博しているのは、楽しそうな彼らを見て伝わった。

15分1本勝負

 つまり、一人遊覧船に乗る若い男が15分の過ごし方を思案する。それが僕しかいないだけだった。しかしそうは言っていられない。間もなく船に着く。「15分で効率的に過ごそう。自分が好きだと思う景色をひたすら写真に撮る15分にしよう。」悩みながらもそう決めた。よーい、スタート。  

 

 まずは降りて浜に出た。パンフレットには特に載っていない。けれど海では当たり前のように存在する浜だけど、「標高の高い山々に囲まれた長野県の湖にある浜」と思えば、何だか不思議な存在に思えてくるのだ。僕はこういう名も無き場所のそういう部分が好きだったりする。

 そのまま人気のない方向へ進む。さっきまで一緒だった人たちとは違う方向へ。一気に静かになる。実はこの野尻湖、あの『静かな湖畔の森のかげから』の唄が誕生した地だと、先ほどの船内レクチャーで知って驚いた。子供のころ、参加したキャンプで歌ったのを思い出す。学生になって、子供たちを引率したキャンプでも同じように歌ったっけか。懐かしい気分になった。静かな湖畔の島の上からノスタルジックな気分を味わう・・・。あ、こうしてはいられない!!ここで4分が過ぎていた。

 少し戻って琵琶島のシンボル・大鳥居へ。その昔、明治天皇がここを巡幸する際、その下見で訪れた勝海舟が額を揮毫したと言われている。「・・・よくわからないけど、おおきくてすごい!」それがかざらないぼくのかんそうだ。滞在時間が長ければ調べたり聞いたりするが、ここも流す。次へ。

 鳥居をくぐって階段を登ると金毘羅宮がある。パンフレットにも何も書いてないからよくわからないけど、とりあえずそこにお賽銭箱がある。とりあえず財布をまさぐると5円あり。とりあえずチャリーン。「とりあえずなんか良いことがありますように。」

 さらに階段を登る。この時点で先に進んでいた年配の方々はぞろぞろと戻り始める。僕は完全に最後尾だった。しかし構うものか。今度は宇佐美定行の墓だ。上杉謙信の重臣として仕えた宇佐美定行。同じく謙信の家臣だったが、幾たびと謀反を企てた長尾政景と揉めた末にこの野尻湖で死んだという。これは深堀すると結構ややこしい伝説で、訪れる前に勉強したのも覚えている。・・・ただ、ここでそこまで思い出している暇はない!次!

 おっ、これなんかカッコイイな!ぱしゃり!次!

 こうして社殿に着いた。琵琶島の宇賀神社。行基が建てたと言われ、倉稲魂命(うがのみたまのみこと)、市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)が祀られている。神社があれば、なんとなく参拝してしまうのが人というものだろうか。僕より先に行った人たちはみんな参拝をして戻っていった。信州の山々の木々に見慣れた僕の目に、社殿の赤と青が際立つ。なかなかの面構えだ。

 社務所がある。おみくじ・・・せっかくだし引いてみようか。って言っても誰も居なさそう・・・。誰も居なさそう・・・ってあれ?もう人の声がしない。あっ、時間!

 ここで15分めぐりは強制終了。サンダルの足で走り出す。砂利が足に入ってきて痛い・・・!ギリギリで船着き場到着。最後の最後、足の悪そうなおばあちゃんと一緒に遊覧船に乗りこんだらそのまま船が出発した。ふぅー・・・。 

◆◆◆  

 粋が落ち着かないままパンフレットを見ると、だいたい島の見どころは見渡せたようだ。でもあと5分、あと5~10分は欲しかった・・・。そう思っていると先ほどの熟年カップルが会話していた。「なんだか、今の島よかったわね、景色とか」

「見どころもまとまってたし、歩くならあれくらいがちょうどいいよ」・・・むぅ。