『なでしこジャパン』の下の世代、『ヤングなでしこ』の存在を知っていますか?U-20と呼ばれている20歳以下の選手で構成される代表チームです。2012年8月19日より、FIFA U-20ワールドカップが日本で開催されています。彼女達はこの大会で自分の力をアピールし、ビッグクラブへの移籍やA代表への選出を目標にしています。今大会で注目度の高い選手を紹介するこの企画。今回はヤングなでしこのエースとして攻撃を牽引するミッドフィルダーの田中陽子選手のプレーの魅力に迫ります!
【田中陽子】たなか・ようこ
国籍:日本
生年月日:1993年7月30日(19歳)
出身地:山口県山口市
身長:157cm
体重:47kg
在籍チーム:INAC神戸レオネッサ
ポジション:MF
背番号:20
利き足:右足
JFAアカデミー福島1期生、中高生からエリートとして知られる
田中陽子は日本サッカー協会が全国から能力の高い選手を選抜して、中高と恵まれた環境で育てるエリートの教育機関であるJFAアカデミー福島の1期生でした。U-17女子W杯には飛び級となる15歳で選出され、2010年の同大会にも出場し、全試合にスタメン出場。ボランチながら、6試合4ゴールの活躍で日本の準優勝に貢献します。アカデミー卒業後、なでしこリーグの強豪クラブである『INAC神戸レオネッサ』へ入団するなど、女子サッカーのエリート街道を歩んできた数少ない逸材です。
ポスト宮間と言われる田中陽子、その秘密は両足フリーキック
プレースタイルが違うので単純に宮間選手と比較することはできませんが、持っているポテンシャルは宮間に匹敵するか、潜在能力はそれ以上だと思います。ポスト宮間と言われる理由は左右両足を自在に操るプレースキッカーという共通点です。世界的にも左右両足でプレースキックを蹴るプレーヤーはそうはいません。田中陽子の凄いところはコーナーキックだけでなく、フリーキックからも両足でゴールを狙うことができるスキルです。
2012年8月26日、U-20W杯のスイス戦で決めた2発のフリーキックは圧巻でした。前半30分、ペナルティエリア左付近でフリーキックのチャンスを得ると、田中陽子はゴール20m手前からニアサイドを狙って右足を振り抜きます。壁の頭を超えたボールは美しい弧を描いてゴール左隅にゲット!続いて後半2分、日本はペナルティエリア右付近でフリーキックを得ると、またしても田中陽子が狙います。しかも今度は左足。蹴る前にフェイントかけてキーパーのタイミングを外すと、低くて速いボールがDFの間をすり抜けてニアサイドに突き刺さります!筆者の知る限り、1試合で両足のフリーキックを決めた女子選手は記憶にありません。
中央でもサイドでも優れたアタッキング能力を持つ
田中陽子はミッドフィルダーならどこでもプレーできるユーティリティ性を持ちます。トップ下、サイドハーフ、ボランチなど複数のポジションを遜色なくこなします。どのポジションが得意ということもなく、全てのエリアで自己能力を発揮できるプレーの引き出しの多さが強みです。ゴールに近い位置でボールを持てば、縦に速いドリブルから鋭い切り返しでDFを巧みにかわし、一人でシュートまで持っていく突破力を見せます。 サイドから攻撃をしかけても一瞬のスピードとフェイントでDFを振り切り、両足から精度の高いクロスボールを供給して決定機を作ります。ボールの引き出し方が上手いのが特徴で、止まった状態から足元で受けるのではなく、トラップと同時に前を向いてスペースにボールを運ぶので、チーム全体の攻撃スピードを落とすことがありません。常に前を向いてボールが持てるので、パスコースとドリブルのスペースを確保できるのです。
ヤングなでしこでは貴重なゲームメーカー
周囲を生かすプレーが上手いのも田中陽子の特徴です。ヤングなでしこのオフェンス陣はドリブル突破やミドルシュートを得意とする選手が多く、一対一の局面を打開する能力には長けていますが、中盤でゲームをコントロールしながら周囲にパスを散らせる選手がほとんどいません。攻撃でドリブルやシュートばかりを選択しても、人数の揃ったディフェンスラインを切り崩すことはできません。田中陽子はドリブルシュートという選択肢だけでなく、多彩なパスを出せる選手です。ドリブルで前に行くと見せかけてキープしてタメを作り、サイドバックやボランチのオーバーラップを引き出すための時間を作ることができます。
パスを出した後も味方へのフォローが速く、パスの出し手と受け手の関係だけでなく、第3の動きからスペースに飛び込んできたフリーの選手を見つける広い視野を持っています。選手間の連動性に乏しいヤングなでしこに、田中陽子のパスが加わることで攻撃のリズムに変化がつけられます。アタッカーやフィニッシャーの仕事だけでなく、パサーとしてゲームメークも担当できる万能型MFと言えるでしょう。
守備能力も高く、ボランチとしても一流
攻撃面だけでなく守備面でも高いポテンシャルを持つ田中陽子。本人いわく「ボランチの方がやりやすい」という言葉を残しています。90分間休むことなくプレッシングをかけ続ける抜群のスタミナを持ち、ポジションセンスに優れていてマンマークにも強く、前に出るインターセプトの力が非常に強いのが特徴です。中盤でパスボールをカットしてからスピードに乗ったカウンター攻撃をしかけるプレーを得意とします。
20~30mの中長距離のパスは精度が高く、味方の足元にピタリと合わせます。戦況を見ながら効果的なサイドチェンジを繰り返し、ボールを左右に散らしながら中盤の底で舵取りの役目を果たします。 また、好機と見ると一気にバイタルエリアまで飛び出し、左右両足で強烈なミドルシュートをゴールに叩き込みます。
総括
U-20ワールドカップでは『1試合1得点で全試合得点が目標』という田中陽子。攻守に渡り素晴らしい能力を発揮しながらも、ここ一番でゴールを決める決定力も兼ね備えています。チームではPKキッカーも務め、プレッシャーのかかる場面でも冷静なキックで確実に得点を奪えます。どんな状況でも物怖じせず、高い向上心を保ちながら試合に挑めるメンタルの強さは、ヤングなでしこの象徴的な存在のように思えます。