ロンドンオリンピック開催日に先立ち、女子サッカーの試合が始まりました。今回は7月25日に行われたなでしこジャパンの開幕戦、グループリーグ第一戦の日本VSカナダの試合を振り返ってみたいと思います!
なでしこ白星発進!裏目に出たカナダの作戦
2対1で勝利を掴み、幸先のいいスタートを切ったなでしこジャパン。ゲーム展開は予想通りのものとなった感があります。カナダのエースは国際Aマッチ137得点で歴代3位の記録を持つFWのシンクレア。高さとパワーを兼ね備えた彼女にロングボールを放り込み、競り合いから生まれたセカンドボールを拾って2次攻撃をしかけるという作戦に出たカナダ。フォーメーションは4-4-2で中盤をダイヤモンド型に配置し、3人の守備的なボランチが日本のサイド攻撃をケアし、トップ下のシュミットが2トップにボールを供給するという役割を与えていました。
試合序盤、カナダの布陣は機能していたと言えます。3人のボランチが中盤で激しいプレッシングをかけてボールを追い回し、日本選手がボールを持つと1人に対して2人、3人が囲い込んでボールを奪い、個人技を主体とした日本のサイド攻撃を見事に封じ込めていました。中盤の川澄と宮間がサイドライン際で孤立してしまい、個人で突破をしかけてもカナダの守備網に捕まってカウンターを受ける苦しい展開になりました。
徐々に日本のペースにはまっていくカナダ
しかし、カナダのプレッシングに慣れ始めた日本は、個人での突破からパスアタックでのコンビネーションプレーに切り替えてカナダのディフェンスに対抗します。ボランチの澤と阪口が積極的に前に出てサイドハーフをサポート。バイタルエリアの狭いスペースでもワンツーを駆使した得意のパスサッカーでディフェンスを崩し始めます。両サイドバックの鮫島と近賀がオーバーラップを繰り返して前方の選手を追い越すと、DFのマークが徐々にずれ始めてカナダは混乱に陥ります。
動きの連動性が生んだ日本の先制ゴール
そして前半33分、左サイドの大野を起点としてゴールが生まれます。相手陣内の左サイド深くで澤のスローインを受けた大野。澤に一度ボールを返してペナルティエリアに走り込むと、ワンツーでパスを受けてディフェンスを背負いながらボールをキープ。サイドハーフの川澄がゴール前に飛び込んできたところに絶妙のヒールパスを出すと、角度のない場所から川澄が思い切りよくシュート。ボールはサイドネットに吸い込まれて先制ゴールを奪いました。
このプレーに象徴されるように、日本はパスの出し手と受け手だけでなく、その周りの選手が一手二手先のプレーを読んで動き出していることが分かります。ボランチの澤がバイタルエリアに侵入したことによって、サイドハーフの川澄がフリーになり数的優位を確保。大野がペナルティエリアでボールを受けた瞬間に川澄がゴールに向かって動き出しています。一つのプレーで3人の選手が連動することで、カナダのディフェンスはその動きについてこれませんでした。組織的かつ頭脳的なプレーを得意とする日本ならではの得点と言えるでしょう。
2点目も大野が起点、後半に失点もあったが内容はまずまず
このゴールでペースを掴んだ日本は立て続けに波状攻撃をしかけます。ディフェンスラインを引き気味にしてカウンター攻撃を狙うカナダに対し、日本は前線から激しいチェックでボールを追い回してパスの出どころを抑えました。苦し紛れに出したカナダのロングパスは精度に欠け、前線のシンクレアを孤立させてしまい単調な攻撃に終始していました。
逆に日本は流れるようなパス交換でサイドアタックをしかけると、前半44分に左サイドの大野がポストプレーで起点を作ると、オーバーラップしてきた鮫島にボールを落とします。鮫島はダイレクトでクロスボールを送ると、ニアサイドで大義見が潰れたところをファーサイドにいた宮間がヘディングシュート、2点目を奪いました。その後も試合のペースを握った日本。後半10分に鮫島の不用意な飛び込みから左サイドをドリブルで突破され、ピンポイントのグランダークロスをFWのタンクレディに飛び込まれて失点を喫しましたが、試合内容はまずまずだと言えるでしょう。
大野がフォワードに上がり、川澄がサイドハーフに下がる
この試合で大きなポイントになったのが、大野と川澄のポジションチェンジです。本番直前までのフォーメーションでは大野が右サイドハーフ、川澄は左フォワードに位置していましたが、この日は宮間を右サイドハーフに回して、川澄のポジションを一つ下げて左サイドハーフに、大野を左フォワードに配置するという新布陣で挑みました。結果、大野が2得点に絡む大活躍でチームは勝利。このコンバートは成功したかに思われます。
大野はフィジカルが強くてキープ力の高いプレーヤーです。彼女がフォワードに張ることで前線の起点が一つ増えることは確かです。今まではセンターフォワードの大儀見が一人でポストプレーをこなしていました。大野がフォワードに入ることにより、ターゲットマンとしてタメを作ることができれば後方のプレーヤーも攻撃参加しやすくなり、パス回しもスムーズになるでしょう。
一つポジションを下げた川澄のプレーに疑問符
しかし、問題は川澄の動きです。彼女はドリブル突破が得意と言われていますが、それはゴールに近い位置でボールを持ってからのこと。一瞬の切り返しとクイックネスの速さでディフェンダーを置き去りにしてシュートに持ち込むプレーに長けています。この日の得点にも表れているように、川澄のペナルティエリア内のシュートは正確無比でゴールを奪うプレーに大きな特徴を持っています。この試合では左サイドに大きく開いてポジションを取り、サイドの起点になろうとしていましたが、ボールを持ってからの動きがちぐはぐに感じ取れました。
縦にドリブルをしかけては潰され、前にスルーパスを出してもカットされ、左足のキックに自信がないのか効果的なセンタリングも上げられないように見えました。試合を重ねることでプレー精度は向上してくると思われますが、個人的には川澄はチャンスを作るアシスターではなくゴールを決めるフィニッシャーだと思います。
大野は元々フォワードの選手で、なでしこリーグでも得点王に輝いている名手です。フォワードでのプレーに問題はありませんが、代表チームでは右サイドで攻撃の起点になっていました。サイドライン際を突破するウイングプレーはパワフルかつスピーディーで、前を向いてボールを持てばなかなか止められない威力の高さを誇ります。中盤で長い距離をドリブルできる大野が右サイドで攻撃のリズムを作っていたので、カナダ戦では中盤の攻め手が一つ減った印象を受けました。川澄をサイドハーフで使うとするなら、左ではなく右サイドに配置し、サイドに開くのではなく中央よりにポジションを取り、よりゴールに近い位置でプレーさせるべきではないでしょうか。
総括
白星発進でこれ以上にないスタートを切ったなでしこジャパン。次の試合はダークホース的な存在と言われるスウェーデン代表との一戦です。ドイツワールドカップでは4-1で勝利するなど相性の良い相手ではありますが、カナダ代表と比べると格段にレベルの高いチームです。予選グループリーグでは南アフリカ代表を4-1で下しおり、調子の良さを見せています。なでしこジャパンがロンドンオリンピックでどこまでやれるのか、真価を問われるのは次戦だと思います。