藤田スケールと藤田哲也博士

5月6日に関東北部を襲った竜巻と、その後の竜巻への対策のニュースで、藤田スケールという言葉が何度も使われた。

藤田スケール(Fスケール)は、シカゴ大学教授の藤田哲也らが提唱したトルネード(竜巻)の規模を示す基準で、アメリカ海洋大気庁 (NOAA) の国立トルネード・データベースに蓄積された過去のトルネード被害を表現できるよう設定されたもの。

現地調査や写真や映像を使って、「被害の大きさ」を示すもので、トルネードの「風速」を正確に表現するものではなかったため、藤田らはFスケールの導入直後から改良作業を進め、1992年には修正藤田スケール(EFスケール)を発表。現在は、トルネードの規模を示す標準的なスケールとして国際的に使われている。

藤田哲也博士は、現在の北九州市出身の気象学者で、トルネードのほかダウンバースト(下降噴流)の研究でも世界的に知られている。

1975年にニューヨークJFK国際空港で発生したイースタンエアライン66便の墜落事故について、パイロットの操縦ミスとの調査結果を覆し、ダウンバーストによる墜落だったことを証明した。さらにダウンバーストがドップラーレーダーによってある程度予測できることを立証し、世界中の空港にこのレーダーが配備されることになった。

ちょうどダウンバーストの研究が一段落した頃、藤田博士の講演を聞いたことがある。

米国では「ノーベル賞に気象部門があれば間違いなく受賞する」と言われるほど有名な藤田博士だったが、当時は日本ではほとんど知られていなかった。

▼空気を目で見ることは難しい。だから竜巻も突風もダウンバーストも、目で見てそれに備えることは困難だ。

▼しかし、空気の中の水滴の動きをドップラー効果で知ることができるドップラーレーダーを複数設置すれば、水滴の動きを通して空気の動きを知ることができる。

▼マイクロ波を使うドップラーレーダーは、探知できる射程が短いという弱点がある。

▼しかし、航空機が下降噴流のような気流の乱れによって事故を起こすのは多くの場合着陸時である。着陸態勢に入った航空機が地面に激突する危険があるような高度と距離であれば、空港にドップラーレーダーを設置することで空気の動きを検知し、着陸予定の航空機に危険を知らせることができる。

▼目に見ることのできない空気の急激な動きによる事故を防ぎたければ、各空港にドップラーレーダーを配備する必要がある。

講演を聞いたのは30年以上前のことですが、理路整然とした話が印象的で、この辺のくだりははっきり覚えている。

たとえ道具に弱点があったとしても、事故を防止するという目的に合致する使い方をすれば効果を上げることができるという、きわめて明快かつ平易な発想が鮮やかだった。

現在の日本の観測体制では、竜巻の発生を天気予報なみの確度で予知することは困難だろう。しかし、藤田博士の発想があれば、防災あるいは減災の“ツボ”を押さえたアドバイスがあったのではないかと思う。

藤田博士は1998年に逝去された。

◇北九州の情報誌「リビング福岡・北九州」に藤田博士についての詳しい記事「世界に誇る気象学者“ミスター・トルネード”藤田哲也」が掲載されています。

 

  藤田博士の講演を聞いたのは高校の講堂だった。博士はうちの高校の大先輩で、博士の甥は筆者の同級生だった。講演を聞いたあと、甥っ子のバブくん(かれの愛称)が照れ臭そうに「伯父さんなんだ」と教えてくれたのを、「ウソだろ」と疑って彼が少しムッとしたことを思い出す。バブくん、元気にしてますか。あの時はごめんね。藤田博士の記念館、はやくつくりたいね。